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メディカルICTリーダー養成講座【中級】フォローアップ
≪サーバー保守学≫
医療現場のサーバーやシステム保守運用業務に役立つ情報を定期的に配信しています。

サーバ保守学(19)

(執筆者)亀田医療情報株式会社 塚田智 


みなさん、こんにちは、サーバー保守学第19回です。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、再び緊急事態宣言が出されました。感染者は増え続け、医療提供体制は逼迫しています。みなさんの施設でも、大変な苦労をしながら対応にあたっていることと思います。収束への道筋は、まだ不透明です。まず目の前にある事態に即応することを優先し、その後の状況変化に応じて柔軟に対応できるように準備しておきましょう。

さて、今回は、電子カルテなどのシステム更新で注意すべきことを考えていきましょう。クラウドを利用したIaaSやSaaSでないケースを想定します。システムを運用するために、まず医療機関はサーバー機器を購入して、施設内やデータセンターに設置します。サーバー機器のメーカーによる保守は、5年から長くても7年程度です。保守期間が終了したサーバー機器は、万一故障した場合に修理できず、そのサーバーで動作している全ての業務が停止してしまいます。このため、保守期間の終了以前にサーバーを更新することになります。

このサーバーの更新に合わせて電子カルテなどのソフトウェアも更新します。OSやミドルウェアを最新版にするのが一般的でしょう。5年から7年前に導入して以来、永らく使い慣れたシステムなので、システム更新は新規導入時に比べれば簡単だろう、と思われがちです。しかし実際には、新規導入には無かった課題があります。システム更新は、新規導入よりも手間取る、と考えた方がよいでしょう。

  

システム更新は、新規導入よりも手間取る


1.新機能を利用する 運用を見直す

サーバー機器の更新に合わせて、電子カルテのソフトウェアも更新するが普通です。当然新しいソフトウェアに追加された新機能が使えるようになります。新機能を実際の業務で活用できるか検討し、施設内で新しい業務フローを構築するという流れになります。これにはシステムの新規導入時と同じ作業が必要になります。

以前のシステム導入時に決めた業務フローが手直しされずにそのままになっている場合もあります。導入から7年経過する間には、システム以外の設備の変更や、制度の改定があるため、導入当時に決めた業務フローが最適解ではなくなっているのが普通です。システム更新の機会に、現状に合った業務フローに再構築することが必要になります。馴染んできた業務フローを変更するのは、現場の反対が多く苦労するところです。

なお、新機能を利用するにしても、既存の業務フローを見直すにしても、すべてを一夜に実施するにはリスクがあります。システム更新と同時にしかできないことのみを即時対応し、それ以外のことは更新後に計画的に実施することがコツです。


2.マスターを整備する データを整理する

既存業務の業務フローの見直しに合わせて、マスターを整備する必要があります。新しく必要になった項目を追加するのは勿論ですが、不要になったマスターが大量にある場合は削除することもあります。あるいは、並び順を変更する、表示される文言を分かり易くする、など医師や看護師などのエンドユーザーの使い勝手を良くする目的でマスターの整備が必要になります。これらは日常的にもできる作業ですが、使い勝手に影響する部分はシステム更新と同時に実施しておく方が、エンドユーザーの理解を得やすいと思います。

データベースやファイルに蓄積されたデータの一部を削除することもあります。例えばエンドユーザーが操作する毎に記録される操作ログがあった場合などです。操作ログは監査や障害調査で必要なものですが、日常的に利用されるものではありません。その操作ログが大量になりストレージを圧迫するようであれば、既存システムの操作ログは新システムには移行せず、別の場所に保管しておくこともできます。保管場所としては、施設内の別サーバーやNAS、データセンターやクラウドのストレージサービス、などいくつかの選択肢があります。データの種類や用途に応じて、適切な保管場所を選定しましょう。


3.サーバーを移行する PCを新しくする

既存サーバーから新サーバーへデータを移行し、新システムを稼働できる状態にするのは業者の役割になります。しかし、サーバーの移行には医療機関側で対応しなくてはならないことも多くあります。例えば、一時的に新旧のサーバーを同時に設置するための場所の確保、そのための空調設備や電源の増強、などです。さらに、新サーバー稼働後には、旧サーバーを撤去し廃棄しなくてはなりません。撤去や廃棄の費用が新システムの見積りに含まれているか確認しておきましょう。

新システムにすることで、動作するPCの要件が変わって、PCを全台買い換える場合もあります。この場合は、一時的にユーザーの作業場所に新旧2台のPCを配置することになり、作業場所を圧迫します。医療施設は場所が狭いことが多く、一時的とはいえ配置には苦労します。さらに、そのためにLANポート、HUB、ケーブルも必要になります。ネットワークに一時的な変更を加えることは、障害の原因になったり、セキュリティリスクになったりしますので注意しましょう。


ここまで、電子カルテなどを同じシステムで更新することを前提にしてきましたが、事情があって他社のシステムに変更する場合もあるでしょう。その場合は、既存システムから新システムへのデータ移行や、運用フローの全面的な見直し、という難題も解決しなくてはなりません。

システム更新にあたっては、既存システムを運用しながらの導入のため、更新作業が難しくなります。また、すでにある業務フローを変更することは、新しい業務フローを作るよりも難しいものです。それでもシステム更新は必要であり、業務フローを改善するチャンスです。新規導入とは違った視点で、システム更新の目標を設定して、効果的なシステムを再定義しましょう。


(公開日 : 2021年02月01日)
医療機関で求められるICT管理者
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