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≪サーバー保守学≫
医療現場のサーバーやシステム保守運用業務に役立つ情報を定期的に配信しています。

サーバ保守学(14)

(執筆者)亀田医療情報株式会社 塚田智 


みなさん、こんにちは、サーバー保守学第14回です。新型コロナウイルスの感染拡大は、少し落ち着いた時期から再び拡大傾向に転じ、終息の見通しの立たない不安な状況が続いています。具体的な自粛要請や制限はほとんどありませんが、経済活動が再開して、新しい生活様式が定着するには、まだ時間がかかりそうです。みなんさんの施設でも、感染対策の拡充や患者数の増減に併せて、頻繁に業務フローを変更していることと思います。この機会にITを活用した業務改革ができるよう、積極的に取り組みましょう。

さて、今回のコラムのテーマはテレワーク(*1)です。一般企業ではテレワークに積極的に取り組んでいます。しかし、医療施設は患者さんと対面するサービス業務が主体であり、テレワークをしにくい環境にあります。そんな中でもテレワークにできる業務は何か、実施するためにはどんな準備が必要か、考えてみましょう。


*1:このコラムでは、テレワークを在宅勤務の意味で扱います。テレワークはもともと、在宅に限らず社外で勤務することを表現していますが、最近の報道などでは在宅勤務を表すことが多いようです。また、テレワークというのは日本独特の表現で、アメリカなどでは work from home と言うようです。

  

医療施設のテレワークに必要なもの


1.一般企業のテレワーク

IT企業をはじめとして、一般企業は、テレワークに積極的に取り組んでいます。中にはテレワークを基本にして、特別な場合にしか出社しない会社や、それに合わせてオフィスを縮小する会社まであります。一般企業といっても、業種や職種によってテレワークに適している業務と、テレワークではできない業務があります。例えば製造業の事務系はテレワークにできますが、製造ラインの現場はテレワークにできないでしょう。

営業職は、外出自粛の影響や訪問先がテレワークしているという状況から、テレワークで成果を上げざるを得なくなりました。従来はテレワークが難しいと思われてきた職種ですが、実際にテレワークしてみると意外にできる、こちらの方が効果的だ、という声もあります。営業職に必要なWEB会議や社内システムが自宅から使えるようになったのが、このような評価につながっています。また、世論にテレワークを認めるような雰囲気が出来てきたことも見逃せません。


2.医療施設のテレワーク

医療施設でも一般企業のようにテレワークを導入できるか考えてみましょう。前提として、オンライン診療は対象外とします。それは、オンライン診療のガイドラインでは、患者さんは自宅に居り、医療者は医療施設内に居ると想定しているためです。

患者さんと対面する業務が多い臨床系の職員の業務のすべてをテレワークにするのは無理があります。職員ごとでなく、業務に分割してテレワークできそうな業務を考えてみましょう。医師の業務でテレワークにできそうなものを考えてみます。

  • 外来予約の患者さんのカルテを前日に読んで確認しておく。
  • 入院中の患者さんのカルテを参照し状況を確認する。
  • 自分がオーダーした検査結果を自宅で確認する。
  • 必要あれば自宅で投薬や処置のオーダーを入力する。
  • 検査レポートやサマリーを作成する。
  • 院内のカンファレンスや委員会、院外の調整会議に参加する。
  • 自分の専門領域の情報収集や研究。

などが思いつきます。インターネットが使え、会議はWEB会議で開催され、自宅で電子カルテを操作できれば、医師の業務でもテレワークにできるものが多数ありそうです。

看護師の業務の多くは患者さんとの対面、あるいは対面結果を即時に記録(システムに入力)するものです。これらはテレワークには不向きでしょう。検査技師やメディカルクラークといったコメディカルの業務も看護師と同様に、不向きでしょう。これらの職種では、院内会議、人事、教育などの管理業務がテレワークの対象になります。

医事課や診療情報管理といった医療事務系、および経理や人事といった一般事務系の職員がテレワークすることは現実的です。一般企業と同じく、自宅から院内システムを利用することで、ほとんどの業務をテレワークにできるでしょう。


3.テレワークのために必要なIT

テレワークを実施するためにシステム管理者として、何を準備する必要があるでしょうか。これは、一般企業も医療施設も同じような状況だと思いますので、一般企業のテレワークの事例を参考にするとよいでしょう。一般企業の事例に多くあるのは、社内システムへのVPN接続、SaaSの利用、になります。医療施設に当てはめて考えると、以下のようになります。

  • 自宅のPCから院内のサーバーへ接続するためのVPNを構築する。VPNで院内にある電子カルテや事務系のシステムを利用する。
  • 自宅からWEB会議(SaaS)を利用できるようにする。

次に、これらを整備し効果的に運用するために、システム管理者は何に気を付けるべきでしょうか。自宅で電子カルテなどの院内システムを利用できることは、とても便利です。その反面、情報流出や不正アクセスのリスクが高くなります。利用者と利用できるシステムを限定することは必須です。加えて、自宅での利用規定を作って利用者に遵守してもらいましょう。その際に、自宅で利用する場所を確保すること、本人以外の家族には操作中の画面が見えないこと、WEB会議の声が聞こえないように配慮をすること、などが重要になります。また、WEB会議は声が明瞭に聞こえないとストレスが溜まります。そのため、事前に必要なヘッドセットなどの機器をテストし、模擬会議を実施するなどして、自分の声が相手にしっかり聞こえているか確認できる機会を作ると良いでしょう。


今後、医療施設においてもテレワークは広まると考えられます。いつかは、医師が自宅からオンライン診療することも認められるでしょう。そうなれば、オンラインによる初診の振り分け、入院前の面談、家族への説明なども、テレワークでできるようになるでしょう。在宅でなくとも、自宅近隣のサテライトオフィスで勤務することも期待できます。このような状況を想定して、システム管理者として必要な対応を段階的に考えておきましょう。次回のコラムでは、具体的にどうのように導入してくかを解説します。


(公開日 : 2020年08月07日)