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≪決算書の簡易診断≫
上場している様々な企業の決算書の簡易診断結果を提供しています。
決算書の簡易診断 No.34 ニプロ株式会社
【決算書の簡易診断とは】
実在する企業の決算書(主に貸借対照表と損益計算書)の中身を4つのチェックポイントから簡易的に経営診断したものです。各チェックポイントを独自の判断により「優」「良」「可」「不可」の4段階で評価しています。
簡易診断結果は十分な経営分析ではありません。参考としてご覧ください。
【チェックポイント1】債務超過に陥っていないか?
総資産額よりも負債合計額が小さいので債務超過ではありません。
2021年度3月期は、お金の出所である自己資本(純資産)は対前年度+128億円となり、1,741億円に増加しました。負債合計は対前年度+97億円となり、6,803億円に増加しました。
一方、お金の運用先である総資産は対前年度+225億円となり、8,544億円に増加しました。
財務体質を表す自己資本比率(※純資産=自己資本としています)は、対前年度+1.0ポイントで20.4%に改善しています。しかしながら、厚労省が発表している医薬品・医療機器産業実態調査による、資本金規模が200億円以上(当企業の資本金は844億円)の医療機器製造販売業の自己資本比率の平均値51.8%(2020年度)を大きく下回る水準です。
【チェックポイント2】営業利益・経常利益は黒字か?
2021年度3月期の本業の基礎収益力を表す営業利益は対前年度+12億円で276億円に増えました。売上高営業利益率は対前年度+0.1ポイントとなり、6.1%に改善しています。
当期の正常収益力を表す経常利益は、対前年度+29億円で263億に増加しました。売上高経常利益率は対前年度+0.5ポイントとなり、5.8%に改善しています。
売上高営業利益率、売上高経常利益率のどちらも改善しており、収益力が向上しています。前述の医薬品・医療機器産業実態調査による、売上高営業利益率と売上高経常利益率の平均値は6.5%、4.7%です。売上高営業利益率は平均値を下回っていますが、売上高経常利益率は上回る良い水準です。
【チェックポイント3】損益分岐点比率は100%を下回っているか?
損益分岐点比率は対前年度▲1.5ポイントと大きく改善し、81.1%に下がりました。採算構造が改善しています。
前述した医薬品・医療機器産業実態調査による平均値84.8%を下回る良い水準です。
【チェックポイント4】現・預金残高は月商(ひと月の売上高)の1.5ヶ月分あるか?
運転資金や手形の不渡りなどの不時に備えた手元現預金月商倍率は対前年度▲0.22ヵ月となり、2.38ヶ月に減少しています。
一般的な判断基準値である1.50ヶ月を大きく上回る水準で、安定した資金繰りが伺えます。ただし、3期連続で減少しており、今後の動向には留意が必要です。
【総合評価】
新型コロナウイルス感染症の影響で、医薬関連事業が不調となる一方、医療関連事業とファーマパッケージング事業(※)は好調となり、当企業の2021年3月期の経営成績は良好でした。
売上高が対前年度で大幅増収(+130億円)となる一方、変動費の増加(+84億円)を抑えた結果、固定費回収パワーである貢献利益は大幅増(+46億円)となりました。売上高貢献利益率は30.3%から30.5%に改善(+0.2%)しています。固定費が増加(+18億円)しましたが、それ以上の貢献利益の増加を確保したことで、経常利益は大幅増益(+29億円)の263億円となりました。
採算面は、対前年度で収益力・生産性ともに改善しており、問題ありません。
その結果、財務面では、自己資金の源泉である利益剰余金の厚みが対前年度+126億円となり、873億円に増えました。その他の包括利益や非支配株主持分を加味した結果、純資産は対前年度+128億円となりました。一方、資金運用の総資産の伸びは、流動資産▲117億円、固定資産+342億円となった結果、対前年度差+225億円となりました。流動資産の減少の主な要因は、現金(▲57億円)と売上債権(▲119億円)と当座資産の減少にあります。対して、在庫や貯蔵品などの棚卸資産は+109億円増となっています。純資産で賄えなかった分を外部から調達した結果、負債は+97億円となりました。しかし純資産の伸びが負債の伸びを上回ったため、自己資本比率は1%改善しました。負債増の主な要因は社債(+484億円)とリース債務(+170億円)です。
企業買収や製造施設や設備への投資を積極的に行っていることもあり、自己資本比率は低めで、固定比率は248.8%と高い水準ですが、固定長期適合率は74.3%と100%を切っており、今のところは財務体質に問題はありません。
※原材料のガラス管から、バイアル、シリンジ、ゴム栓などの成形部材、さらには投与時のデバイスまで開発・製造を行う。
【その他】
医療機器製造販売企業は軒並み業績が良好です。各指標などは医療機器の購入やリース時の価格交渉のメルクマールとしましょう。
会計の本質的な部分を理解し、貸借対照表と損益計算書の中身を読み解く力をつけることで、より詳細な分析を行うことができます。「絵でつかむ会計力リーダー養成講座」をまだ受講されていない方は是非ご検討ください。