診療報酬深堀りニュース(2024年度改定関連)

2024年度診療報酬改定の中間とりまとめ案

(執筆者)株式会社MMオフィス / 関東学院大学大学院非常勤講師 工藤高

1.2024改定に向けた中間とりまとめの一丁目一番地が一般病棟入院料

2024年診療報酬改定に向けた議論を行う中医協の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」では9月14日に中間とりまとめ案を大筋で了承した。

【中間とりまとめの10項目】
  1. 一般病棟入院基本料について
  2. 特定集中治療室管理料等について
  3. DPC/PDPSについて
  4. 地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料について
  5. 回復期リハビリテーション病棟入院料について
  6. 療養病棟入院基本料について
  7. 外来医療について
  8. 外来腫瘍化学療法について
  9. 情報通信機器を用いた診療について
  10. 横断的個別事項について

冒頭の一丁目一番地にあたる(1)一般病棟入院基本料については、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症が急性期一般入院料1(7対1)以外の入院料でも対応可能なことや高齢者救急が重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)の要件を満たすことを問題視するデータとなっている。これまでも財務省サイドが多すぎるとする入院料1をいかに減らしていくかの最大の「刺客」が看護必要度の見直しであった。前回改定の「心電図モニターの除外」も内科系病院中心に大きな影響を与えた。そのアウトカム(結果)である「看護配置7対1の入院基本料の届出状況」が中医協総会において示された。それによると入院料1は2014年(当時は7対1入院基本料)の384.5千床をピークに減少傾向にあった。ところが前回改定後の2022年7月1日は353.1千床となり、前年の349.8千床から3.3千床(0.94%)増加している。

2.急性期一般入院料1(旧7対1)が増加した2つの理由

入院料1の増加理由は2つあるだろう。第1は前回改定で新設された全麻2,000件以上等が要件の「急性期充実体制加算」において、地域包括ケア病棟(地ケア)を併設していると不可とされた点である。そのため、地ケアを入院料1に戻して、急性期充実体制加算を届出した病院がある。弊社クライアントでも1病院が該当する。

第2はこれも地ケア入院料2・4の200床以上病院において、「院内転棟6割以上の場合は入院料15%減算」が導入された。実際に前回2022年改定前後の地ケア病床届出施設数の推移を病床規模別に見ると地ケア届出施設全ての病床規模で減少している。地方厚生局データからの弊社定点観測によると前回改定前後において500床以上病院で地ケアを持つ40施設が31施設へ22.5%減。400床台も80施設→70施設(12.5%)、300床台263施設→236施設(▲10.3%)、200床台276施設→267施設(▲3.3%)と病床規模が大きいほど減少割合は高くなっていた。ちなみに院内転棟6割以上15%減算の対象にならなかった200床未満における100床台でも1,201施設→1,166施設(▲2.9%),99床以下でも884施設→876施設(▲0.9%)と減少していた。200床未満での減少は地ケアにおける他の施設基準ハードルが上がったことが要因と思われる。

このように前回改定は地域医療構想における「急性期」に該当する入院料1を減らして、「回復期」に該当する地ケアを増やすという基本方針とは真逆の結果となった。そのリバウンドが2024年改定では予測される。中間とりまとめ案では看護必要度について①A項目(モニタリング、処置等)のうち「薬剤3種類以上の管理」該当割合がいずれの入院料でも増加、②75歳以上の高齢者に多い誤嚥性肺炎、尿路感染症では入院料1の医療資源投入量が他の疾患と比較して低いこと、A項目の「救急搬送後の入院/緊急に入院を必要とする状態」の該当割合が高いことが指摘された。他にも救急搬送後の入院評価期間の日数短縮などの見直しを求める意見が盛り込まれている。

3.看護必要度不具合修正という「モグラ叩きゲーム」はそろそろ終焉へ

一般病棟に看護必要度が導入されたのは2008年診療報酬改定である。その前の小泉内閣時の2006年改定で創設された当時の7対1入院基本料が多くなりすぎたため、その「刺客」的な役割で導入された。それ以降は改定の度に要件が変更され現在に至っている。2018年は認知症があれば現在のA2点ではなく、A1点に緩和される要件があった。2020年ではその要件が廃止され、C項目の手術日数が延長となった。そして、前回2022年改定は心電図モニター削除と入院初期や手術後に実施することが多い注射薬剤3種以上採用によって、病床回転率をあげていかないと看護必要度は上がっていかない仕組みとなった。つまり、在院日数が長めで看護必要度が満たない患者による病床稼働率の高さと看護必要度とのトレードオフ(二律背反)の関係が最も強くなった。

これまでの看護必要度は心電図モニターメーカーに対する内需拡大に大きく貢献した。注射薬剤3種以上も性悪説で考えれば看護必要度を意識した使用をする病院もあるかも知れない。それは結果として医療を歪める。様々なDPCデータから看護必要度A、C項目が高ければ1日当たり入院単価(医療資源投入量)も高く、両者はほぼ相関している。他にも様々なDPCデータ活用で入院料1の刺客ミッションの看護必要度の存在は見直す時期がきたことは間違いない。改定の度に看護必要度不具合修正というゲームセンターの「モグラ叩きゲーム」状態はもう終わりにすべきだが、すでにコインは投入された。

以上


※(株)メデュアクト「医業情報ダイジェスト」2023年10月号の筆者連載を加筆訂正したものです。

※ 本記事は「Obelisk -オベリスク-」の共通コンテンツ「工藤高の医療行動経済学」で配信しているものを一般公開したものです。

(公開日 : 2023年10月26日)
診療報酬とデータサイエンスのプロによる解説! 【2024年4月11日(木)開催!】
超・完全解説! 2024年度 診療報酬改定セミナー
3月開催セミナーでは解決できなかった「事務連絡待ち」のない完全解説と、データを使ったシミュレーションによる徹底分析による、超・完全解説の診療報酬改定セミナーをお届け! 改定内容の説明だけにとどまらない真の価値ある本セミナーへ是非ご参加ください。
高い視点と広い視野"デジタルマガジン"「オベリスク」
Obelisk
診療報酬のことから身近なこと、法律のことまで。医療関係者に役立つ多様な情報やニュースを日々配信する"デジタルマガジン" 。会員になると、自動外来レセプト分析アプリが利用できたり、診療報酬改定セミナーが無償で受講できるなどの会員特典もあります。