決算書の簡易診断　No.19　株式会社スズケン

【決算書の簡易診断とは】

1. 実在する企業の決算書（主に貸借対照表と損益計算書）の中身を4つのチェックポイントから簡易的に経営診断したものです。各チェックポイントを独自の判断により「優」「良」「可」「不可」の4段階で評価しています。
2. 簡易診断結果は十分な経営分析ではありません。参考としてご覧ください。

【チェックポイント１】債務超過に陥っていないか？

1. 2020年度3月期時点の総資産（＝負債と純資産の合計）は1兆1,125億円で、対前年度▲767億円の減少となっています。
2. そのうち、負債合計は6, 998億円（対前年度▲878億円）、自己資本（純資産）は6,016億円（対前年度＋111億円）です。総資産額よりも負債合計額が小さいので債務超過ではありません。
3. 負債減、自己資本増の相乗効果により、財務体質のシンボルである自己資本比率（※自己資本＝純資産としています）は、対前年度＋3.3ポイントと大きく改善し、37.1％に上昇しています。年商10億円以上の卸売業の2019年度の自己資本比率の平均値34.2％（財務省の法人企業統計調査による）を上回る水準に改善しています。

【チェックポイント２】営業利益・経常利益は黒字か？

1. 当期の本業の基礎収益力を表す営業利益は対前年度＋53億円と増加し、326億円でした。売上高営業利益率は対前月比＋0.2ポイントとなり、1.5％に上昇しています。
2. 当期の正常収益力を表す経常利益は対前年度＋53億円の増益で、415億円の黒字です。
3. 売上高経常利益率は対前年度＋0.2ポイントとなり、1.9％に改善しています。
4. 前述調査によると2019年度の売上高営業利益率と売上高経常利益率の平均値は、それぞれ0.5％、2.4％です。それらと比較すると、経常利益率がやや低い水準にあると言えます。

【チェックポイント３】損益分岐点比率は100％を下回っているか？

1. 採算構造のシンボルである損益分岐点比率は、対前年度▲2.3ポイントの改善となり、78.6％に下がっています。
2. 生産性が向上しており、良い水準です。

【チェックポイント４】現・預金残高は月商（ひと月の売上高）の1.5ヶ月分あるか？

1. 運転資金や手形の不渡りなどの不時に備えた手元現預金月商倍率は、対前年度▲0.29ヶ月となり、1ヶ月を割る0.91ヶ月に下がっています。
2. 当企業は借入金（当期完済）がなく、税金を除く対外的な負債は仕入債務だけです。
3. 一般論としては、判断基準値である1.50ヶ月程度の現預金が基準ですが、当企業は無借金経営のうえ大企業でもある点からまずまずの水準と考えられます。

【総合評価】

1. 売上高の増収（＋811億円）に比例して変動費も増加（＋763億円）しました。
2. 売上高貢献利益率は対前年度から▲0.1ポイント下がり、8.8％となりました。
3. 前述調査による平均値7.1％を上回る、まずまずの水準です。
4. 固定費回収パワーである貢献利益を増加（＋48億円）させる一方で、固定費を減少（▲5億円）させた結果、採算構造（損益分岐点比率）が改善し、当期の経常利益は増益（＋53億円）となりました。
5. 2020年3月期も対前年度で増収増益の良い経営成績でした。売上高に対する経常利益率は改善の余地があるものの、全体的に問題がありません。
6. 財務面では、利益剰余金の積み上げ（自己資本増）と資産圧縮より得た資金を使って負債を減らすことで、財務体質（自己資本比率）を大きく改善させました。同社の利益剰余金の社内留保は十分（利益剰余金÷資本金≒29倍）となっており優良企業です。

【その他】

1. 新型コロナウイルスの第3波が押し寄せ、変異種ウイルスもみつかるなど、事態収拾は一向に見えません。病床不足による医療提供体制の逼迫が懸念される一方、無床診療所などの小さな医療機関では、患者数減による減収やコロナ対策への費用負担により、経営難が懸念されます。資金繰りに十分注意し、何としてもこの難局を乗り越えましょう。




会計の本質的な部分を理解し、貸借対照表と損益計算書の中身を読み解く力をつけることで、より詳細な分析を行うことができます。「絵でつかむ会計力リーダー養成講座」をまだ受講されていない方は是非ご検討ください。