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新型コロナウイルス感染症をめぐる位置づけの動向

(執筆者)日本医師会総合政策研究機構 主任研究員 王子野麻代

(法律監修)銀座中央総合法律事務所 弁護士 高山烈


新型コロナウイルス感染症が確認されてから1年経った今なお、我が国では第3波が猛威をふるい、再び緊急事態宣言の発令に至った。新型コロナウイルス感染症は、感染症法上「指定感染症(注1)(2類相当)」に指定されており、現在実施されている疫学調査や検体採取、入院勧告などの感染症対策はこれに基づくものである。

しかし、この指定は1年限りの時限措置であり、その期限が今月末に迫っている。これを受け、厚生科学審議会感染症部会(注2)は、新型コロナウイルス感染症の性質が未だ明らかでない点が多いこと、今後の流行状況等も必ずしも見通せない状況であることを踏まえ、来年2022年1月31日まで1年間の指定延長を了承した。

ただ、感染症法7条2項で示されているように、期間の延長ができるのは今回1回限りである。そのため、来年の延長期間到来後を見据えて、新型コロナウイルス感染症を感染症法上どの類型に位置付けるか問い直す時期にある。


感染症法7条
1 指定感染症については、一年以内の政令で定める期間に限り、政令で定めるところにより次条、第三章から第七章まで、第十章、第十二章及び第十三章の規定の全部又は一部を準用する。
2 前項の政令で定められた期間は、当該政令で定められた疾病について同項の政令により準用することとされた規定を当該期間の経過後なお準用することが特に必要であると認められる場合は、一年以内の政令で定める期間に限り延長することができる。
3 厚生労働大臣は、前二項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ、厚生科学審議会の意見を聴かなければならない。

※傍線は筆者によるもの


1.指定感染症の指定に係るこれまでの経緯

新型コロナウイルス感染症の指定感染症指定に係るこれまでの動きを示す(下表)。我が国において1例目の感染患者が確認されたのは、2020年1月15日のことである(注3)。同年2月1日、新型コロナウイルス感染症を指定感染症に指定すると定めた政令(注4)が施行され、その後2度の政令改正を経てその適用範囲は徐々に拡大されていった(図1)。たとえば、入院勧告や検体採取など(図1黄色部分)は2月1日施行当初から、2月14日改正政令(注5)施行時に無症状病原体保有者への適用が追加され(図1橙色部分)、3月27日改正政令(注6)施行時には外出自粛要請など(図1桃色部分)が新たに追加適用された。

同年12月17日、厚生科学審議会感染症部会において、上記政令の適用期間の終了が迫っていることを受け、指定感染症の指定の1年間の延長が了承され、翌2021年1月7日にその旨の改正政令(注7)が施行された。なお、感染症法上、指定の再延長はできない。


表 新型コロナウイルス感染症の指定感染症指定に係るこれまでの主な経緯(筆者作成)

2020年2月1日 新型コロナウイルス感染症を指定感染症に指定する政令の施行(適用期間1年:2021年1月31日まで)
2020年12月17日 厚生科学審議会感染症部会にて上記指定の1年間延長を了承
2021年1月7日 指定感染症の指定を延長する改正政令の施行(延長期間1年:2022年1月31日まで)
2022年1月31日 指定感染症の指定延長期間の終了

図1 感染症法に基づく分類ごとの主な措置の概要「新型コロナウイルス感染症の適用措置拡大の経過」

感染症法に基づく分類ごとの主な措置の概要「新型コロナウイルス感染症の適用措置拡大の経過」

出典 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策における今後の検討の視点について(案)」第50回厚生科学審議会感染症部会(令和2年12月17日開催)資料1.


2.指定感染症の時的限界

上述のように指定感染症は措置範囲を柔軟に定められるが、時的限界がある。そこで、1年後の延長期間経過後、どの類型に新型コロナウイルス感染症を位置付けていくか今後の検討課題となっている。

感染症法には、1類から5類といった感染力と罹患した場合の重篤性等を考慮した危険性の程度に応じた分類がある(図2)。1類から3類感染症は行政による強権的な措置の対象となるため、感染症の名称が法律上規定されている(注8)。4類感染症は調査の実施や対物措置といった比較的軽易な権限行使の対象であり、5類感染症は強権的な措置の対象とはならないため、4類と5類感染症についてはこれに分類すべき代表的な感染症のみを例示し、その具体的な内容は政令や省令で定められている。

指定感染症は、1類から3類感染症および新型インフルエンザ等感染症と同程度の危険性を有するが、これらに該当しない。しかし、これに準じた対人対物措置を講じなければ、疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある緊急の場合に、1類から3類感染症等に準じた措置を講ずることを可能とする類型である。暫定的な措置であるため、延長を含めて最長2年という時限的なものである。


図2 感染症法に基づく分類ごとの主な措置の概要「新型コロナウイルス感染症・2類感染症・新型インフルエンザ等感染症の措置比較」

感染症法に基づく分類ごとの主な措置の概要「新型コロナウイルス感染症・2類感染症・新型インフルエンザ等感染症の措置比較」

出典 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策における感染症法・検疫法の見直し(案)関係」第51回厚生科学審議会感染症部会(令和3年1月15日開催)参考資料1.


3.今後の分類の論点

指定感染症の指定延長期間経過後の位置づけについて、厚生労働省は厚生科学審議会感染症部会において、「新型インフルエンザ等感染症」の類型に新型コロナウイルス感染症及び再興型コロナウイルス感染症を新たに追加する考えを示している(図2)。その理由としては、1類から5類感染症の類型では感染力・罹患した場合の重篤性に応じて柔軟に措置を講ずることができる規定がないため、現在、指定感染症として講じているものと同等の措置が維持できないということが背景にある。これに対し、「新型インフルエンザ等感染症」であれば入院措置等が可能であり、さらに強力な措置については政令で柔軟に準用可否を決定できるため、現在、指定感染症として講じている同等の措置が可能だからというものである。ただ、「新型インフルエンザ等感染症」の類型にはインフルのみが射程であるという課題がある。

一方で、指定感染症と同等の措置は不要であり、指定感染症から外して季節性インフルエンザと同等の5類にすべきとの見解もある。その理由としては、死亡者数に着目してそこまでの危険性がないといった意見や、医療機関や保健所の地域における負担に配慮すべきであるなど様々なものがある。他方で、既存の類型とは別に、新型コロナウイルス感染症のための新たな類型をつくるべきという意見もある。

1年後にどのような状況になっているのか予測しがたいものがあるものの、日々新型コロナウイルス感染症に関する情報は蓄積され、ウイルスの性質や病状の特性等の科学的な知見も今後さらに蓄積されていくであろうことや、数か月後にはワクチン接種が始まるというこれまでにない新たな動きもあり、感染者数の変動等も考えられる。厚生労働省は、今月15日の厚生科学審議会感染症部会(注9)において、次期通常国会への早期提出を目指す考えを示しており、引き続き今後の動向に注目する。


[脚注]

  • 注1)指定感染症とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう(感染症法6条8項)。
  • 注2)第50回厚生科学審議会感染症部会(令和2年12月17日開催)
  • 注3厚生労働省(令和2年1月16日報道発表資料)「新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目)」
  • 注4)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令(令和2年1月28日政令第11号)同年2月1日から施行.
  • 注5)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部改正(令和2年2月13日政令第30号)同年2月14日から施行.
  • 注6)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部改正(令和2年3月26日政令第60号)同年3月27日から施行.
  • 注7)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部改正(令和3年1月7日政令第4号)同日より施行.
  • 注8)厚生労働省健康局結核感染症課監修「詳解 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」四訂版.
  • 注9)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策における感染症法・検疫法の見直しについて(案)」第51回厚生科学審議会感染症部会資料1.
(公開日 : 2021年01月28日)
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