診療報酬深堀りニュース(2024年度改定関連)

2024年度診療報酬改定率の内訳

(執筆者)株式会社MMオフィス / 関東学院大学大学院非常勤講師 工藤高

関係職種の処遇改善へ+0.61%の財源投入

昨年12月20日、武見厚労大臣と鈴木財務大臣は2024年度予算案についての大臣折衝を行い注目の2024年度診療報酬改定の改定率は本体+0.88%、薬価・材料等は▲1.00%で差し引き(ネット)▲0.12%で決定した。診療報酬改定率とは現年度の政府予算の積算上の医療費に対して、翌年度はどれくらいかの目安(名目の値)を示す指標になる。政府が翌年度の予算案決定と改定率決定時期が12月中旬から下旬に重複するのは、翌年度の保険料率や医療費に連動する税金額を確定させるために名目医療費が必要になるためである。

誤解が多いが「改定率=診療報酬の増減率」ではなく、実際は「寄与率」となる。これは「ある変数の変動に対し、各要因がどれだけ影響しているか」を表したものが寄与度になり、それを変動全体に対する百分率で表したものが寄与率となる。今回の診療報酬本体+0.88%といっても、それはマクロの国民医療費における予算のプラスであり、どの医療機関もそれだけの診療本体増収になるわけではない。今回はとくに処遇改善として人件費(固定費)に充当される部分が多いため、プラス財源は病院にとっては「鵜飼の鵜」のように吐き出して、職員へ配分されることになるため収入は増加するが、利益が増加するわけではない。

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グラフは2000年度からの改定率の推移である。2006年度のネット▲3.16%は小泉政権下で過去最大となったマイナス改定であり、一方、介護保険がスタートした00年度の本体+1.9%に次いで高いのは、民主党政権下の2010年度(+1.55%)、2012年度(+1.379%)だった。2024年度の本体+0.88%は前回改定を0.45ポイントほど上回った。これは2014年度改定からの自民党政権下では最も高い改定率である。

本体改定率+0.88%のうち、医療関係職種の処遇改善のために特例対応で+0.61%、入院時の食費基準額の引き上げに+0.06%としている。さらにマイナス分として「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等による効率化・適正化」で▲0.25%を確保とした。これらを除いた改定分は+0.46%になる。

各科の改定率は医科+0.52%、歯科+0.57%、調剤+0.16%であり、この中に「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分」である+0.28%が含まれている。これは上記アンダーライン部分(筆者)の医療関係職種の処遇改善+0.61%とは別扱いになっている。

この+0.61%で「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」に対し、2024年度にベア+2.5%、2025年度にベア+2.0%の賃上げを実施するとしている。具体的にどのような方法で配分するかは、これからの中医協の議論へ委ねられる。診療所では初診料、再診料、在宅患者訪問診療料への点数へ上乗せ、病院や有床診療所に関しては、初診料と再診料、在宅患者訪問診療料に診療所と同じ点数を上乗せして、それでカバーし切れない財源を配分するため入院基本料にも上乗せする案が有力なようだ。

長期収載品へ選定療養の仕組みを導入へ

気になる点は「効率化・適正化▲0.25%」部分である。実は2022年度改定時も「リフィル処方箋の導入・活用促進による効率化▲0.10%」とされた。これは470億円程度であったたが、1枚の処方箋が最大3回まで使用可能なリフィル処方は極めて少なく、実際の医療費削減効果は50億円程度しかなかったとされている。

今回は中医協において「生活習慣病を中心とした管理料」として、特定疾患療養管理料や外来管理加算の見直しが支払側から提案されている。もし、これらが実施されれば、財務省が点数引き下げを主張していた診療所経営を直撃することになる。

また、長期収載品には選定療養の仕組みが導入される。「後発医薬品の上市後5年以上経過、または後発医薬品の置換率が50%以上の長期収載品を対象に、後発医薬品の最高価格帯との差の4分の3までを保険給付の対象」として24年10月から施行する。たとえば先発品との価格差が1,000円の場合、750円(患者は加入保険の負担率に応じてその1〜3割負担)を保険給付として、残りを自費負担するものである。院内処方の医療機関や調剤薬局窓口での説明が煩雑になる。選定療養費対象外になる場合の詳細は今後の通知で明らかになる。

2024年度改定では、薬価は▲0.97%、材料価格は▲0.02%となったが、薬価は2021年度から診療報酬改定のない中間年でも毎年引き下げが実施されている。このときの薬価差(平均乖離率)は8.0%であったが、今回は6.0%と縮小している。もはや、メーカー、卸の経常利益も限界となっており、医薬品産業発展による内需拡大のためにも単に薬価を叩く方策は再考すべきであろう。

※(株)メデュアクト「医業情報ダイジェスト」2024年1月号の筆者連載を加筆訂正したものです。
※ 本記事は「Obelisk -オベリスク-」の共通コンテンツ「工藤高の医療行動経済学」で配信しているものを一般公開したものです。

(公開日 : 2024年01月26日)
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