診療報酬深堀りニュース(2024年度改定関連)

2024年改定では身体拘束ゼロへの取組を評価

(執筆者)株式会社MMオフィス / 関東学院大学大学院非常勤講師 工藤高

1.入院における認知症対応について3つの論点

認知症高齢者数は、2012年で462万人と推計されており、2025年には約700万人(65歳以上の高齢者の約5人に1人)、2040年には約800〜950万人(65歳以上の高齢者の約4〜5人に1人)に達することが見込まれている。本年11月で65歳になり、高齢者の仲間入りをした筆者も他人ごとではなく、確率20〜25%の認知症罹患ロシアンルーレットに参加したことになる。

医療機関においても急増する認知症入院患者の看護・介護が重要課題となっている。慢性期病院だけではなく、急性期病院においても小児科や産婦人科入院が多くなければ、入院患者全体の平均年齢は70歳超が多く、何かしらの認知症症状がある患者が多くなっているからだ。

2024年診療報酬改定に向けての中医協総会の議論が大詰めを迎えており、「認知症の論点」で「入院医療機関における認知症対応」として以下の3つが示された。なお、厚労省文書で「どのように考えるか」とは「推進します」や「変えます」という意味になる。

  • ○入院医療機関において、身体的拘束を予防・最小化するためのマニュアルや身体的拘束の実施・解除基準等を整備することや身体的拘束の実施状況の見える化等、身体的拘束の予防・最小化を組織的に取り組むことを促進する方策についてどのように考えるか。
  • ○身体的拘束を予防・最小化する取組を促進する観点から、既に身体的拘束等の行動制限を最小化する取組の実施を求めている看護補助者の配置に係る加算等について、身体的拘束を実施した場合の評価についてどのように考えるか。
  • ○認知症とせん妄の症状の類似性に鑑み、認知症患者のアセスメントにおいてはせん妄の鑑別も必要であることから、せん妄ハイリスク患者ケア加算で求める「せん妄のリスク因子の確認」及び「ハイリスク患者に対するせん妄対策」を認知症ケア加算でも求めることとし、その上で各加算の評価についてどのように考えるか。
  • (2023年11月29日 中医協総会資料より)

2.2021年度の認知症ケア加算における全国平均身体拘束率は31.8%

認知症には診療報酬上において「認知症ケア加算」がある。これは「認知症症状の悪化を予防し、身体疾患の治療を円滑に受けられることを目的とした評価」であり、施設基準は1〜3の3区分になっている。早期介入の14日以内の点数が高く、15日以上になると一気に下がる。さらに身体的拘束を実施した日はペナルティーとして所定点数の6割しか算定できない。

2021年度電子レセプトデータである第8回NDB(ナショナルデータベース)によると身体拘束100分の60点数を算定している割合は、全国平均で31.8%になっていた。都道府県別で低いのは島根(16.7%)、鳥取(17.4%)、石川(17.1%)であり、反対に高いのは山梨(45.2%)、茨城(42.8%)、栃木(42.3%)となっている。

A病院(500床)における2020年度の身体拘束率は60%を超えていた。看護部も身体拘束は極力回避したかったのが、高度急性期のため手術患者が多く、術後せん妄率が高く、チューブ抜去防止のミトン(手袋による抑制具)等は患者の安全確保のためにやむを得ないという見解であった。

また、看護職員数が多い日勤帯は問題ないのだが、夜勤は多くないことと看護補助者の当直がいないため、夜間の医療安全の観点から身体拘束につながっていた。しかし、同規模で隣の二次医療圏にあるB病院は手術件数や術式、夜勤看護職員数、認知症ケア加算算定は月間1200件強とほぼ同一なのに、身体拘束割合は30%前後とA病院の半分程度となっていた。A病院は医師だけが要件を満すため、同加算2であったが、B病院は同加算1であり、600時間以上の研修を修了した認知症看護の認定看護師がいた。同看護師、精神科医、社会福祉士による認知症ケアチームが毎週院内をラウンドし、さらに院内研修を頻回に実施していることなどがA病院との大きな違いだった。

3.身体拘束率が高い病院の特徴は分母のランクⅢ以上が少ない傾向

A病院における誤嚥性や市中肺炎入院症例を分析してみると、認知症が進行している症例ほど在院日数が長くなっていた。A病院においても2021年度には待望の認知症看護の認定看護師も誕生して加算1を届け出した。病院目標として「身体拘束率ゼロ」を掲げた結果、21年度は身体拘束率40%を切り、現在は30%台となった。

同加算の身体拘束率が高い病院の特徴として、計算式分母にあたる「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準のランクⅢ以上」が十分にスクリーニング(洗い出し)できていないことが多い。施設基準で定められた年1回の研修会だけでなく、頻回に担当者による院内研修が必要となる。分母のランクⅢ以上が100人で身体拘束50人ならば拘束率50%であるが、実際はスクリーニングが甘くて、ランクⅢ以上が200人いたとしたら拘束率は25%になるからだ。拘束率が高い病院は概ね分母が小さいケースが多い。

中医協資料では「『身体的拘束を予防・最小化するためのマニュアル等』又は『院内における身体的拘束の実施・解除基準』は、概ね9割程度の病院で策定されていたが、急性期一般入院料4〜6と地域一般入院料を有する病院の策定率は約7割と低かった」とされた。2024年改定に向けて身体拘束をゼロへの取組がますます重要になってくる。それは100分の60へ逓減する点数減収回避のためではなく、患者さんの尊厳のためである。


※(株)メデュアクト「医業情報ダイジェスト」2023年12月号の筆者連載を加筆訂正したものです。

※ 本記事は「Obelisk -オベリスク-」の共通コンテンツ「工藤高の医療行動経済学」で配信しているものを一般公開したものです。

(公開日 : 2023年12月21日)
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