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≪サーバー保守学≫
医療現場のサーバーやシステム保守運用業務に役立つ情報を定期的に配信しています。
サーバ保守学(8)
(執筆者)亀田医療情報株式会社 塚田智
みなさん、こんにちは、サーバー保守学第8回です。前回取り上げたIaaSのストレージ障害は、最近の報道によると、影響を受けた1,318個の仮想OSのうち98.1%が復旧完了し、復旧作業中のものが1.4%、復旧が困難なものが0.5%、とのことです。障害発生から1ヶ月ほど経過してこの状況であれば、ある程度落ち着いたとも思えます。ですが、0.5%にあたる6個のシステムが復旧できていないことは、重大な問題に発展する可能性もあります。今後の経過に注目しましょう。
さて、今回はサーバーのハードウェア更新のお話です。サーバーのハードウェアは5年から7年でメーカーによる保守が終了してしまうため、それに合わせて更新が必要になります。みなさんの施設でも電子カルテの最初の導入からある程度の年数が経過して、サーバー更新を検討してる方も多いことでしょう。新規導入時に苦労して構築し、せっかく安定稼働しているサーバーを更新する作業は、導入時とは異なる注意が必要になるものです。今回は、サーバー更新時の特有な注意点を考えてみましょう。
サーバー更新の目的を明確にして、段階的に実施する。
1.更新の目的を明確にする
新しいシステムを稼働させるときには、システムを活用することで業務効率を上げるなど大きな目的があります。それに付随する作業としてサーバーの新規導入があります。新しい取り組みで目的が明確なため、具体的な成果を設定でき、投資対効果を確認しやすく、経営者も投資しやすくなります。
対して、システムに大きな変更がないのにサーバーを更新する場合、業務上の大きな改善が期待できないのに、メーカーの都合で新しいサーバーを購入するように受け取られることがあります。担当者が投資対効果を上手く説明できず、経営者から投資を抑制されてしまう可能性もあります。システムの導入時にサーバー更新も見込んだトータルコストで計画しているので、すでに投資対効果は確認されていると説明することはできます。しかしながら、数年前の計画を再検証なしに実行するのではなく、更新の時期の状況に合わせた目的を明確にして、最善の計画にする必要があるでしょう。
積極的な再検証として、サーバー更新のみでなくシステム全体の更新や、さらには新しいシステムへの移行など全体の計画を見直す可能性もあり得ます。サーバー更新にとどめた場合の再検証にあたっては、以下のような観点で目的を検討してはどうでしょうか。
- 稼働実績から必要なサーバーリソースを確認し適切な構成にする
- 機器構成や保守範囲を見直し全体の費用を削減する
- データセンターやクラウドを活用する
- セキュリティレベルを高める
- サーバー管理を高度化し自動化する
- 障害対策やBCP(注)を高度化する
- 処理速度を改善する
2.サーバーの新規導入と更新の作業の違い
サーバーの新規導入ならば、新しいハードウェアを用意してVM(仮想OS)、OS、ミドルウェア、アプリケーションを導入していきます。通常は業者が行う作業です。対して、サーバー更新であれば、旧サーバーからVMのイメージを取り出し、新サーバーのVMにコピーすれば完了です。これならシステム管理者でも実施できます。別のハードウェアへシステムをそのまま簡単に移行できるのはVMの最大の利点の1つです。
サーバー更新の目的にもよりますが、これまでの資産を継承するならば、VMをコピーする以外の作業はできるだけ少なくしたいものです。VMはバージョン間の互換性があるものなので、VMは最新版にバージョンアップするとします。アプリケーションを更新しないことを前提にすれば、あとはOSとミドルウェアのバージョンアップの検討になります。OSとミドルウェアはバージョンごとにメーカーのサポート期間が決まっています。サポートの終了したOSやミドルウェアを使い続けることは安全とはいえず、サポート期間内で使うもの、サポートが切れる前にバージョンアップするものに区分けする、というのが一般的な認識でしょう。サーバー更新から短期間でサポートが切れると分かっているならば、サーバー更新に合わせてOSとミドルウェアのバージョンアップを計画しておきたいものです。OSとミドルウェアのバージョンアップにはライセンス料の考慮も必要です。製品によってライセンス料の考え方は異なり、バージョンアップは新規導入と同様のライセンス料がかかる場合もあります。
オンプレミスのサーバー更新の場合、新旧の2つのサーバーを施設内に設置する時期があります。サーバー室の大きさや電源が不足しないか注意してください。
3.サーバー更新に関連する作業手順を決める
OSやミドルウェアのバージョンアップが必要となっても、サーバー更新と同時にバージョンアップをするのではなく、段階的に実施するのがよいと思います。サーバー更新はできるだけシンプルで少ない作業にして、新しいサーバーで従来通りにシステムが安定稼働したことを確認した後に、OSやミドルウェアのバージョンアップを実施してはどうでしょうか。その他の設定変更や運用変更も同様で、サーバー更新後の作業として段階的に変更することが良いと思います。
紙カルテから電子カルテへの切り替えのような新規導入時には、多くの業務を一斉に変更する必要があるため、稼働日に合わせてすべての準備を整えておき、いちどきに運用開始する必要があります。サーバー更新に関連する変更は、いちどきにでなく別々に実施してもよいものが多くあります。サーバー更新はできるだけシンプルにして、その前後の関連する作業は分割して段階的に実施することが要点です。段階的に実施することで、現場のユーザに対する影響を削減することができます。運用に混乱なく、システム担当者の作業を平準化することもでき、より安全に目的を達成できるようになります。
(注)BCP:Business Continuity Planの略称で、事業継続計画を意味する。災害やシステム障害などの緊急事態が発生した場合に、損害を最小限に抑え、事業継続や復旧を図るための計画のこと。