診療報酬深堀りニュース(2022年度改定関連)

一般病院における2020年度の医業利益率平均はマイナスへ

(執筆者)株式会社MMオフィス 工藤高

1.2020年の概算医療費

厚労省は本年8月末に2020年の「概算医療費」を発表した。概算医療費とは、レセプト審査支払機関である支払基金(社保)と国保連合会(国保)が審査したレセプトデータを集計した速報値になる。労災や全額自費の医療費費用を含まない。医療機関などを受診し傷病の治療に要した費用全体の推計値である「国民医療費」の約98%に相当するものだ。

図表1のように新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、医療費は前年度より1.4兆円減少し42.2兆円となった。伸び率は対前年同期比で▲3.2%と、過去最大の減少幅となっている。受診延べ日数は▲8.5%と減少した一方、1日当たり医療費は5.8%増加している。1日当たり医療費(1日当たり単価)の増加は外来では長期処方が多くなったことと、「不要不急」の外来・入院減で点数が低い患者が減ったことが大きな理由である。

≪図表1 2000年〜2020年の診療種別別の医療費推移≫

図表1 2000年〜2020年の診療種別別の医療費推移

病院収入は「(@)患者単価×(N)患者数」になる。今回は点数が高い「必要火急」な患者が多くなったために重度患者の比重が高まり、1日当たり単価(@)は上がったが、それ以上に受診延べ日数(N)(外来延患者数、入院延患者数)が減収したために病院経営は厳しくなったわけだ。厚労省の説明では「平時ならば高齢化や医療の高度化で医療費は対前年比で2%伸びるところが、新型コロナ影響で大幅に減少した。患者の受診控えとともに、基本的な感染対策として『マスク着用の徹底』、『うがい励行』、『ソーシャルディスタンス確保』など、新しい生活様式の浸透による呼吸器系疾患を中心とする疾病の減少などの影響により医療費が減少したと考えている」としている。

前年度比1.4兆円減の主たる減少理由となる医科診療費1.24兆円減を疾病分類別で見ると、最大減少は「呼吸器系疾患」0.57兆円減、次に「循環器系疾患」0.17兆円減、「筋骨格系および結合組織」0.10兆円減となっている。とくに呼吸器疾患は前年比25.3%減と大幅減少である。たしかに筆者も例年は最低1〜2回は感冒症状になるのだが、昨年2月以降のコロナパンデミック以降は至って健康である。弊社のクライアント病院でも昨年度の入院件数ではMDC6名称の「肺炎等」、「インフルエンザ等」、「急性期気管支炎等」、「ウイルス性腸炎」等の感染症疾患入院が3割〜8割程度まで減っている。

2.WAM2021年度 病院・診療所の経営状況

これらの医療費減少は医療費支払い側である健康保険組合等の保険者にとっては喜ばしいことであるが、診療側である医療機関側にとっては医業収入減により、医業利益率減少という深刻な事態を招く。図表2は独立行政法人「福祉医療機構」(WAM)「2020年度病院・診療所の経営状況(速報)」(2021年10月20日)からの引用である。図表のように「医業利益率の推移」では「一般病院で▲0.9%、療養型病院で2.6%、精神科病院で0.5%と、いずれの病院類型も前年度から大きく低下し、過去最低の水準」となった。

≪図表2 病院の医業利益率の推移(速報) WAM(福祉医療機構)レポートより≫

図表2 病院の医業利益率の推移(速報)

WAMでは「前年度(2019年度)からの変化」として、「診療報酬上の特例等により病院の入院単価・外来単価とも上昇したが、一般病院(入院患者2.6%減、外来患者10.3%減)をはじめ、入院・外来患者減少の影響は大きい」としている。「コロナ患者受入れ病院の経営状況」として「 コロナ患者を受け入れた一般病院の実質的な医業利益率は、前年度から3.2ポイント低下の▲2.0%となった」と分析している。筆者も様々な医療費経営分析調査を見てきたが、一般病院における全体平均の医業利益率がマイナスとなるのを初めて見た。

コロナの補助金は多くの病院では医業外収益として計上するため、医業利益率はマイナスでも補助金等の医業以外の収入も加えた「経常利益率」ではプラスとなっている病院が多い。WAMでは「経常利益率は、前年度と比べて一般病院と精神科病院でわずかに上昇、療養型病院では1.9ポイント低下となった。2020年度補正予算等にて順次創設・拡充された医療機関向けのコロナに関連する各種補助金による収益補填効果は一定程度認められ、経常収支ベースでは前年度並みの水準におおむね近い形になるとみられる。 とはいえ、経常赤字の病院の割合は依然高く、 療養型病院にあっては 12.5 ポイント拡大するなど、厳しい経営状況にある病院は少なくない」としている。

3.幽霊病床の実態

財務省サイドの一部では補助金による病院経営プラスをあまり快く思っていない節がある。空床補償を受けているのにコロナ患者受け入れが少ない病床を「幽霊病床」という名詞で岸田首相も発言していた。筆者の知る限りはそのようなコロナ補助金を不正に受給しているような病院はない。ふだんでもギリギリの職員数からコロナ受け入れ病床を確保しており、受け入れ不可の最大理由はそのときの職員マンパワー不足によるものだ。看護職員確保はしていたが、院内クラスターで濃厚接触者となって自宅待機になった場合等が該当する。

コロナパンデミックにおいて医療現場最前線で最も肉体的かつ精神的な負担がかったのは看護職員である。昨春の第一波到来時における当初の未知ウィルスに対する恐怖とストレスを抱えながら勤務を行うだけではなく、風評被害での病院勤務者に対する偏見や保育園での子供預かり拒否等にも悩まされた。さらには昨年12月段階ではまだまだ医療機関に対するコロナ補助金支給も不確定だったため冬季賞与を一部カットした病院も多くあった。WAM調査でも「従事者1人当たり人件費」が一般病院(n=527)で2019年637.2万円から2020年635.5万円へと1.7万円減少している。これは賞与カットの影響が大きいであろう。

4.診療報酬改定への視点

この当時はコロナ入院患者を受け入れるほどに、不要不急外来減少や予定手術延期、健診停止のため病床稼働率が下がり、病院経営自体もまさしく危機的状況であった。これが冒頭に述べた概算医療費減の最大理由である。ただし、本年3月末までにはコロナ入院受入病院ほど多くの補助金支給が行われて病院経営も一息ついた形になった。そのため年度末の3月臨時賞与で冬季賞与カット分+定額一時金を支給した病院も多い。2022年診療報酬改定を来年4月に控えているが、コロナ補助金はあくまでも2020年度、そして、2021年度における一過性のものであり、病院経営は補助金頼み経営になっている。冬の到来とともに危惧されている第6波がどうなるかは不明であるが、いずれにしても補助金がなくなるアフターコロナを見据えて来年4月改定は必要最小限に抑えて病院経営に大きな影響を与えるような変更は控えるべきであろう。

※本原稿は医業経営ダイジェストに書いた拙稿を加筆訂正したものである。

(公開日 : 2021年11月18日)
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