会計力 F/U NO.29
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≪決算書の簡易診断≫
上場している様々な企業の決算書の簡易診断結果を提供しています。
決算書の簡易診断 No.29 株式会社メディパルホールディングス
【決算書の簡易診断とは】
- 実在する企業の決算書(主に貸借対照表と損益計算書)の中身を4つのチェックポイントから簡易的に経営診断したものです。各チェックポイントを独自の判断により「優」「良」「可」「不可」の4段階で評価しています。
- 簡易診断結果は十分な経営分析ではありません。参考としてご覧ください。
【チェックポイント1】債務超過に陥っていないか?
- 総資産額よりも負債合計額が小さいので債務超過ではありません。
- 2021年度3月期は、お金の出所である自己資本(純資産)は対前年度+315億円となり、6,389億円に増加しました。負債合計は対前年度+41億円となり、1兆410億円に増えました。
- 一方、お金の運用先である総資産は対前年度+357億円となり、1兆6,799億円に増加しました。
- 財務体質を表す自己資本比率(※自己資本=純資産としています)は、対前年度+1.1ポイントで38.0%に改善しています。まずまずの水準です。年商10億円以上の卸売業の2020年度の自己資本比率の平均値34.2%(財務省の法人企業統計調査による)を上回る水準です。
【チェックポイント2】営業利益・経常利益は黒字か?
- 2021年度3月期の本業の基礎収益力を表す営業利益は対前年度▲145億円の大幅減で386億円に減少しました。売上高営業利益率は対前年度▲0.4ポイントとなり、1.2%に下がっています。
- 当期の正常収益力を表す経常利益は、対前年度▲151億円の減益で、530億に減少しました。売上高経常利益率は対前年度▲0.4ポイントとなり、1.6%に下がっています。
- 売上高営業利益率、売上高経常利益率のどちらも悪化しており、収益力が低下しています。前述調査によると売上高営業利益率と売上高経常利益率の平均値は、それぞれ0.7%、2.6%です。それらと比較すると、経常利益率が低い水準にあると言えます。
【チェックポイント3】損益分岐点比率は100%を下回っているか?
- 損益分岐点比率は対前年度+4.0ポイントで75.3%に上昇し、採算構造が悪化しています。まずまずの水準ですが、前述調査による平均値66.8%より悪い水準です。
【チェックポイント4】現・預金残高は月商(ひと月の売上高)の1.5ヶ月分あるか?
- 運転資金や手形の不渡りなどの不時に備えた手元現預金月商倍率は対前年度+0.07ヵ月となり0.83ヶ月に増加しています。前述調査の平均値0.72ヵ月を上回っているものの、一般的な判断基準値である1.50ヶ月を大きく下回る水準です。資金繰りには注意が必要です。
【総合評価】
- 新型コロナウイルス感染症による外来受診抑制や手術件数の減少などの影響を受け、経営成績は不振でした。売上高は対前年度で大幅減収(▲420億円)となりました。変動費も減少(▲195億円)したものの、減収をカバーできず、固定費回収パワーである貢献利益は大幅減(▲225億円)となりました。固定費を削減(▲74億円)したものの、貢献利益がそれ以上に減少したため、経常利益は大幅減益(▲151億円)となりました。2021年3月期の採算面は対前年度で減収減益の良くない成績で、収益力・生産性ともに大きく低下しました。
- 財務面では、自己資金の源泉の利益剰余金の厚みは+147億円に増えています。自己資本、自己資本比率は3期連続増となっており、改善傾向にあります。負債では外部からの借入金を返済しましたが、主に「支払手形及び買掛金」が増えた(支払いが延びた)ことで、間接的に調達資金を41億円得ました。その結果、資金運用の総資産は+357億円の増加となっており、そのうち152億円は「現預金残高」としてストックされています。
- 臨床検査企業とは反対に、外部環境が経営にマイナスに働いています。年商10億円以上の卸売業平均と同程度の経営水準であるものの、採算面の立て直しが必要です。財務面では手元現預金の薄さから資金繰りに留意が必要です。
【その他】
- 医薬品卸企業の減収減益は、医療機関の医薬品などの価格交渉へ影響を及ぼすことが考えられます。上記企業は減収減益とは言え、経常利益で530億円の黒字を確保しています。また、貢献利益率は6.7%です。交渉時のメルクマールとして参考にしましょう。
会計の本質的な部分を理解し、貸借対照表と損益計算書の中身を読み解く力をつけることで、より詳細な分析を行うことができます。「絵でつかむ会計力リーダー養成講座」をまだ受講されていない方は是非ご検討ください。
(公開日 : 2021年11月30日)