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1.新型コロナ感染で労災保険を使うと保険料が高くなる?
2.有期雇用労働者の育休取得要件はどう変わる?
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
1新型コロナ感染で労災保険を使うと保険料が高くなる?
社員が病気やケガをして労災保険を使うと保険料が高くなると思うのですが、新型コロナウイルスに感染してしばらく休んだ社員に労災保険を使った場合も高くなるのですか?
労災保険を使うと保険料が高くなる「メリット制」というしくみが適用されるのは、条件にあてはまる一部の事業だけです。
また、新型コロナウイルスに関する労災保険給付はメリット制に反映させないようにする特例が設けられる見込みです。
① メリット制とは
労働災害のリスクは業種によって異なります。そのため、労災保険では業種ごとに保険料率が異なります。しかし、同じ業種であっても災害防止への取り組みなどに差があり、事業場によって災害の発生率が変わってきます。
そのため、災害発生率の高い事業場の保険料負担を重く、低い事業場の保険料を軽減する「メリット制」というしくみがあります。労災保険率を最大-40%から+40%まで増減させることにより、災害防止への企業努力を促すとともに、保険料負担の公平性を図っているのです。
労災保険を使うと保険料が高くなるといわれるのはこのためです。
② メリット制が適用されるのは一部の事業場だけ
ただし、誤解している人もいますが、メリット制が適用されるのは条件にあてはまる一部の事業のみです。具体的には下の表のとおり、一定の継続性と規模がある事業です。
対象となる事業場には年度更新の際に、「労災保険料率決定通知書」が届きます。また、労働保険料申告書の用紙にも、メリット制により増減された保険料率が印字されています。
なお、保険料負担が重くなるのを避けるために労働災害を報告せず、労災保険を使わせないことは、「労災かくし」として犯罪になります。
メリット制が適用される事業の要件 | |
事業の継続性 | 連続する3保険年度中の最後の保険年度に属する3月31日現在において、労災保険にかかる労働保険の保険関係が成立した後3年以上経過していること。 |
事業の規模 | 次のいずれかを満たしていること。
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③ 仕事でコロナに感染した場合は
仕事が原因で新型コロナウイルスに感染した場合も、労災保険の対象となります。
感染症の場合、通常は自身の感染経路を証明することが必要となり、時間と労力がかかりますが、新型コロナウイルス感染症に関しては労災認定がされやすいように厚生労働省から通達が出ています。医療従事者が感染した場合は原則として労災認定されますし、他の業種でも顧客との接触が多い業務など一定要件に該当すれば認定されます。
厚生労働省が公表した令和3年11月末の集計によると、新型コロナウイルス感染症での労災申請は約2万2,000件あり、そのうち1万8,000件が支給決定(不支給は約300件)となっています
しかし、これらをすべてメリット制に反映させると、特に医療などの事業において保険料が高くなりすぎるという問題が出てきます。また、事業主が十分に衛生環境の整備に努めても、新型コロナウイルスへの感染を完全に防ぐことは難しいのが現状です。
そのため、新型コロナウイルスに関する労災保険給付はメリット制に反映させないようにする特例が設けられる見込みです。
保険料負担が重くなることを懸念して新型コロナウイルス感染症に関する労災の申請を渋るようなことが起こらないようにする目的もあるようです。
2有期雇用労働者の育休取得要件はどう変わる?
有期雇用労働者の育休取得要件が変わると聞きました。具体的にどのように変わるのですか?
令和4年4月から、育児休業を取得できる有期雇用労働者の育休取得要件が変わります。これまで2つあった要件のうち1つが廃止されます。育児休業だけでなく、介護休業を取得できる有期雇用労働者の要件も変わります。
① 改正後の要件は
現在、6ヵ月契約や1年契約など期間を定めて雇用する労働者が育児休業・介護休業を取得する場合、2つの要件が定められています。
そのうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件が廃止されることになりました。
その結果、育児休業の場合は「子が1歳6ヵ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかではないこと」、介護休業の場合は「休業開始予定の日から起算して9ヵ月経過する日※までの間に労働契約が満了することが明らかではないこと」、という要件だけになります。この1点を満たしていれば、有期雇用労働者でも育児休業・介護休業を取得する権利があり、事業主は拒否できないということです。
※正しくは「介護休業開始予定日から93日経過後6ヵ月経過する日」
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件 | |
育児休業 |
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介護休業 |
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勤続1年未満の労働者は、労使協定の締結により除外することが可能 (無期雇用労働者と同様の取り扱い) |
② 「労働契約が満了することが明らかではない」とは?
「子が1歳6ヵ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかではない」という表現が少しわかりにくいので具体的にどういう状態か見ていきましょう。この点は改正前から変更ありませんが、判断のポイントは以下のとおりです。
- 育児休業の申出があった時点で労働契約の更新がないことが確実であるか否かによって判断される
- 事業主が「更新しない」旨の明示をしていない場合は、原則として「労働契約の更新がないことが明らか」には当たらないことになる
③ 労使協定で「勤続1年未満」を除外できる
「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件は今回の改正により廃止されますが、労使協定を締結した場合には「勤続1年未満の労働者」を対象外とすることができます。
現在、正社員など無期雇用労働者についても労使協定によって「勤続1年未満の労働者」を育児休業・介護休業の対象外とすることができるので、その点は有期雇用も無期雇用も同じ扱いになったということです。
④ 実質的に無期雇用となっていないか
有期雇用労働者については、形式上は有期雇用労働者であっても何度も契約を更新して長年同じ職場で働いている場合など、実質的には無期雇用と変わらない状態になっている人もいます。
そのような人については、「子が1歳6ヵ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかではない」という要件を満たさなくても、無期雇用の人と同様に育児休業・介護休業の対象となります。