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精皆勤手当ては含める? 在宅勤務手当は?

割増賃金の算定の基礎となる賃金

(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所


労働者に時間外労働や休日労働などをさせた場合は割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金を計算するには、まず基礎となる「1時間あたりの賃金」を正しく計算する必要があります。

労働者に支払っている金額のうち、どこまでを割増賃金の算定の基礎となる賃金に含めるのか、間違いやすいケースを確認していきましょう。


1時間あたりの賃金とは

割増賃金の額は「1時間あたりの賃金×割増率×時間数」で計算します。月給制の場合も、次のように1時間あたりの賃金に換算してから計算します。

1時間あたりの賃金 = 月給 ÷ 月平均所定労働時間

このときの「月給」とは、基本給だけでなく諸手当も含まれます。では、会社が支払う賃金のうちどこまでが含まれるのでしょうか?

算定基礎となる賃金

割増賃金の計算の基礎に入れるべき賃金は、「通常の労働時間または労働日の賃金」です。

たとえば、危険な作業をした日にだけ支払われる「危険作業手当」という手当があったとします。これは「通常の労働日の賃金」ではなく危険な作業をした日にだけ支払われる賃金なので割増賃金の基礎には含めないということになります。ただし、時間外に危険な作業をする場合は「危険作業手当」も割増賃金の計算の基礎に含めなければなりません。

除外できる賃金

割増賃金の算定基礎から除外できる賃金
  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当(単身赴任手当)
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

また、家族手当など労働と直接的な関係が薄く個人的事情にもとづいて支給されている手当なども、計算の基礎となる賃金から除外することができます。

割増賃金の計算の基礎から除外できるものは法令で定められています(右表参照)。これは例示ではなく限定的に列挙されているものです。つまり除外できるのはこの7つだけで、これらに該当しない賃金はすべて参入しなければならないということです。

これらは単に手当の名称によって判断するのではなく、その実質によって取り扱うべきものとされています。

③の別居手当とは、単身赴任により家族と別居を余儀なくされる労働者に対して、生活費の増加分を補うために支給されるようなもので、いわゆる単身赴任手当のことです。

④の子女教育手当とは、子供の教育費を補填するために支給される手当です。

⑥の「臨時に支払われた賃金」とは、臨時的・突発的事由にもとづいて支払われたものや、支給条件はあらかじめ確定されているが支給事由の発生が不確定であり、かつ非常にまれに発生するものを言います。

たとえば、傷病見舞金や結婚祝金、大入り袋などが該当するでしょう。

⑦の「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、たとえば賞与や、永年勤続者に5年10年などの節目ごとに支払う勤続手当などが該当するでしょう。


一律に支給している家族手当は?

除外できる賃金の中に「①家族手当」がありますが、家族がいる社員に支給している家族手当であれば何でも除外できるわけではありません。
除外できるのは、「扶養家族数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」と定義されています。
たとえば、扶養家族1人につき5,000円など、人数に応じて支給している場合は除外できますが、扶養家族が1人でも3人でも1万円など、人数に関係なく一律に支給されている手当は、ここでは家族手当とはみなされません。つまり、割増賃金の計算基礎に含めなければならないということです。
また、先ほど「手当の名称ではなく実質によって判断する」と説明しました。たとえば、「物価手当」「生活手当」の名称であっても、扶養家族数を基礎として算出している部分があるのであれば、その部分は家族手当とみなして割増賃金の基礎から除くことができます。

1日○円と一律に支給している通勤手当は?

通勤手当として除外できるのは「通勤距離または通勤に要する実費費用に応じて算定される手当」です。
実際の通勤費用や通勤距離に関係なく1日500円などと一律に支給するものは除外できません。
ただし、通勤手当の上限を「1日500円まで」と定めていて、たまたま実際の通勤費用が500円以上かかる人ばかりだったために結果的に全員1日500円の通勤手当となったような場合は除外できます。

住宅手当を賃貸は2万円、持ち家は1万円支給している場合は?

除外できるのは「住宅に要する費用に応じて算定される手当」です。
たとえば、賃貸の場合は家賃の一定割合、持ち家の場合はローン月額の一定割合を支給している場合などが該当します。
全員に同額の住宅手当を支給している場合はもちろん、賃貸は2万円、持ち家は1万円など、住宅の形態ごとに一律に定額で支給するものも除外できません。

精皆勤手当は?

精皆勤手当は、勤務状況によって支給される月もあれば支給されない月もある手当です。ですから「⑥臨時に支払われた賃金」や「⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当すると考える人もいるかもしれません。
しかし、支給条件はあらかじめ確定されており、それを満たせば毎月支給される手当なので、⑥や⑦には該当せず割増賃金の算定基礎からは除外できません。
毎月ではなく、たとえば3ヵ月の出勤成績によって支給される精勤手当であれば、⑦の「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当することになり除外できます。
ただし、毎月の勤務状況で手当額を算定しているが、手当の支給は3ヶ月に1回まとめて支払う・・・というように、単に支払い形式を変更しただけでは除外できません。
「無事故手当」なども精皆勤手当てと同様の考え方となります。

固定残業代として営業手当を支給している場合は?

営業手当は、除外できる賃金①~⑦の中にはありませんから、割増賃金の算定基礎となる賃金から除外できません。
ただし、会社によっては「営業手当」という名称で固定残業代を支払っているところもあるでしょう。このように営業手当が実質的に残業代である場合は、割増賃金の算定基礎から除外できます。
なぜなら、割増賃金の計算基礎に入れられるべき賃金は「通常の労働時間または労働日の賃金」であり、残業時間に対して支払う割増賃金のことではないからです。もしこれを算定基礎に入れると、割増賃金に割増率を掛けることになってしまいます。
ただし、会社側が固定残業代として営業手当を支払っているつもりでも、法律上は固定残業代と認められないケースもあるため注意が必要です。たとえば、固定残業代として支払われている分を超えて残業しても差額が支払われない場合などは固定残業代と認められません。

在宅勤務手当は?

毎月5,000円など定額で払っている在宅勤務手当については、除外できません。在宅勤務をする月としない月で支給したりしなかったりすることがあったとしても、先ほどの「精皆勤手当」と同様に考え、除外できません。
では、在宅勤務をした日だけ500円の手当をつけるなど、日単位で支給する場合はどうでしょうか?
厳密に考えると、在宅勤務した日に残業した場合は在宅勤務手当を算入した残業単価になり、在宅勤務をしなかった日に残業した場合は手当を算入しない残業単価・・・ということになります。
しかしこれでは計算が非常に煩雑になり、実務上は難しいかもしれません。

(公開日 : 2022年04月15日)
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