谷口久美子の教養のための遺伝子学【SAMPLE】
BRCA遺伝子変異が胃がん、食道がんなどの発症にも関与 理研などが発見
理化学研究所や国立がん研究センターなどの国際共同研究グループはこのほど、乳がんや卵巣がんの原因として知られる「BRCA遺伝子」の変異が、胃がん、食道がん、胆道がんの発症リスク上昇にも関わっていることを突き止めたと発表した。研究結果は、米国医師会が発行する科学雑誌「JAMA Oncology」のオンライン版(4月14日付)に掲載された。
がんの多くは、加齢や紫外線、喫煙、飲酒などでDNAの塩基配列で表される遺伝情報が一部欠損したり、塩基の並びが入れ替わったりする遺伝子の変異が原因で発症する。だが、なかには親から変異した遺伝子を受け継いだために、生まれつき特定のがんを発症するリスクが高い人もいる。その代表例の一つがBRCA遺伝子の変異だ。
50%の確率で親から子に伝わるBRCA遺伝子の変異
BRCA遺伝子にはBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の2種類がある(以下、「BRCA1/2遺伝子」と表記)。どちらも「がん抑制遺伝子」の一種で、これらの遺伝子の遺伝情報から作られるタンパク質は前出のようなDNAの損傷を修復し、細胞のがん化を止めるストッパー的役割を担う。私たちの2本ある染色体は、両親から1本ずつ受け継がれる。両親のどちらかにBRCA1/2遺伝子の変異がある場合は、それが50%の確率で子に受け継がれ、受け継いだ子では一対になっているBRCA1/2遺伝子の片方が生まれつき変異した状態となる。
遺伝子変異を持たない一般の人の場合は、何らかの原因で片方のBRCA1/2遺伝子が変異してももう片方が正常に機能していれば、細胞のがん化を止められる。これに対して生まれつき片方のBRCA1/2遺伝子が変異している人の場合は、もう一方の遺伝子にも変異が起きると、がん化を止める術が失われる。このため一般の人と比べると、乳がんでは約10倍、卵巣がんに至っては数十倍、発症リスクが高いと言われている。
※2022年4月26日掲載記事。