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1.「無期転換制度」に関する明示が義務に
2.法改正で転勤範囲の明示が必要に。具体的にどう明示する?
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
1「無期転換制度」に関する明示が義務に
厚生労働省は3月30日、来年(令和6年)4月から実施される労働基準法等の改正について省令・告示を交付しました。今回の改正内容は大きく2つに分かれます。「労働条件の明示方法」そして「裁量労働制」に関するものです。
ここでは、労働条件の明示方法のうち、「有期労働契約の更新と無期転換制度」について解説します。
① なぜ改正が必要か
「有期労働契約」とは、「令和5年4月1日から令和6年3月31日まで」などといった期間の定めのある労働契約です。一般的には契約社員やパートタイマーなど業務量の増減に応じて雇用調整をおこないたい場合に用いる契約方法です。
近年、有期契約などの非正規労働者が増加(昨年の割合は36.9%(※1))し、保護する必要性が高まっていることから、同一労働同一賃金、育児休業の取得要件の緩和など有期契約の労働者を保護する法改正が続いています。
(※1)令和4年「労働力調査」より
② 無期転換制度とは
特にパートタイマーなど補助的労働力である有期契約の労働者は、長期に渡って契約更新を繰り返し雇用されることがあり、いつ更新されなくなってしまうか分からない不安定な状況に置かれるという問題があります。
そこで、平成25年4月より「無期転換制度」がスタートしました。
この制度は、同じ企業(使用者)との間で、有期契約が5年を超えて更新された場合に、有期契約労働者から申し込みがあったとき、無期契約に転換されるというものです。
この申し込みがあった場合、無期契約が成立し、使用者は断ることができません。
③ いつから、どのように無期転換?
もう少し、無期転換制度の仕組みを確認しておきましょう。無期転換の権利が生じるのは、「同じ使用者との2つ以上の有期契約が通算5年を超えるとき」です。
例えば、1年契約を繰り返した場合、5回目(通算5年)の契約までは権利はなく、6回目(通算6年)の契約から権利が生じ、6回目の契約期間中、いつでも申し込みできる状態になります。
例えば、3年契約を繰り返す場合、2回目で通算6年の契約となり5年を超えるため、3年超雇用したときから無期転換の権利が生じます。
なお、無期雇用に転換されるのは、有期契約の終了した次の日からで、転換後の労働条件は原則として無期雇用となったこと以外は有期契約のときの労働条件を引き継ぐことになります。無期転換後に労働条件の一部を変更する必要がある場合はその旨を定めておきます。
④ 今回の改正事項は
無期契約に転換する制度が導入されてからしばらく経ちますが、厚生労働省では一層の周知徹底が必要だと考えています。そこで今回、労働条件明示に関して次の内容が改正されます。
- 有期契約の更新上限の明示
- 無期転換申込機会の明示
- 無期転換後の労働条件の明示
1つずつ見ていきましょう。
⑤ (1)更新上限を明示する
有期契約の「更新上限の有無」と、上限がある場合のその「内容」の明示が必要になります。内容とは、通算契約期間または更新回数の上限です。なお、この明示は、新たに有期契約を締結するとき、契約更新をするとき 、その度ごとにおこなう必要があります。【図のⒶ参照】
⑥ (2)無期転換を申し込むことができる旨を明示する
無期転換を申し込むことができる場合においては、できる旨の明示が必要になります。
なお、この明示は、無期転換の権利が発生したときから、有期契約を更新する度におこなう必要があります。【図のⒷ参照】
⑦ (3)転換後の労働条件を明示する
有期契約を無期転換した場合、例えば定年を設けるなどそれまでと労働条件を変更する必要が生じる場合があります。そのため、有期契約の者が無期転換を申し込んだ場合に、どのような労働条件で働くことになるのかを明示することが必要になります。
この明示は、無期転換の権利が発生したときから、有期労働契約を更新する度におこなう必要があります【図のⒸ参照】
⑧ 明示方法は原則書面
なお、明示方法は変わりません。原則は書面によりおこなう必要がありますが、労働者が同意する場合はFAXや電子メール(印刷できるものに限る)も可能です。
⑨ 変更等では説明も必要に
この他、有期契約について更新の上限を新たに設けるとき、または短縮するときはあらかじめその理由を労働者に説明することが義務付けられます。
⑩ 罰則が設けられています
このような改正から、これまで無期転換を申し込んでこなかったというパートタイマーなどが、申し込んでくるかもしれません。今後の採用方法などを検討しておきましょう。
また、労働条件の明示を怠った場合は、労働基準法で罰則(30万円以下の罰金)も設けられています。来年の改正までに社内の通知書の書き換えなど、忘れず準備しておきましょう。
2法改正で転勤範囲の明示が必要に。具体的にどう明示する?
法改正によって、異動の範囲がどこまでありうるのか最初に明示するよう義務付けられると聞きました。具体的にどのように明示すれよいのでしょうか。
令和6年4月から法改正により労働条件の明示ルールが変わります。改正後は勤務地と仕事内容について「雇い入れ直後」と「変更の範囲」に分けて記載する必要があります。
① 明示すべき事項は決まっている
労働基準法では、雇い入れ時に一定の労働条件を明示することを義務付けています。雇用契約の期間や勤務時間、賃金など重要な事項については書面で交付する必要があり、その他の事項は口頭でもよいとされています(右下の表参照)。
なお、表の(1)~(6)は必ず明示しなければならない事項で、(7)~(14)は制度を設ける場合に明示しなければならない事項です。
② 勤務地や仕事内容は今後変わるかも・・・
「賃金の額」などは今後変わる可能性がありますが、雇い入れ時に明示するのはスタート時のものでかまいません。
「勤務地」と「仕事内容」についても、異動などにより途中で変わることもあるため、現在は雇い入れ直後の就業場所と業務内容を記載するだけでよいとされています。
一応、「人事異動により変更の可能性がある」「研修後に、会社が配属を決定する」などといった文言を記載している企業もあるかと思いますが、それでも希望と異なる仕事への配置転換や遠隔地への転勤を巡りトラブルになることは多いようです。
そこで改正後は、将来の配置転換などによって変わりうる勤務地の範囲と仕事内容の範囲も記載することが義務化されました。
③ 具体的な明示方法は
厚生労働省が示した労働条件通知書の見本では、勤務地と仕事内容について「雇い入れ直後」と「変更の範囲」に分けて記載欄が設けられています。
就業場所と業務内容を一定範囲に限定している場合、たとえば左下の図のような記載方法が考えられるでしょう。勤務地や仕事内容が限定されていない場合は、変更の範囲は「会社の定める場所」「会社の指示する業務」など包括的な表現でもかまいません。
④ すべての労働者について明示
「変更の範囲」は、勤務地限定社員などに限らず、すべての労働者について明示しなければなりません。労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに明示が必要です。
令和6年4月以降に締結される労働契約が対象なので、現在すでに無期労働契約を締結している人に新たに変更範囲を明示する義務はありません。