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1.1年単位の変形労働時間制で残業代を節約できるって本当?
2.しつこいクレームや暴言にはどう対応する?

(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所


1年単位の変形労働時間制で残業代を節約できるって本当?

繁忙期は休日出勤をして振替休日を取得できないこともあり、残業代や休日割増などコストがかさんでいます。
1年単位の変形労働時間制を導入すれば、繁忙期の人件費をおさえられると聞いたのですが、どういう制度でしょうか?

繁忙期の労働時間を長く、閑散期は短くなど、労働時間を年単位で調整することで、繁忙期の勤務時間が長くても一定時間までは時間外労働としての取り扱いが不要となる制度です。
割増賃金を節約する効果は確かにありますが、制約が多く手間がかかるため、本当に運用していけるかどうか、よく検討する必要があるでしょう。

① どんな制度?

原則的な労働時間制では1日8時間、週40時間の法定労働時間の範囲で会社の所定労働時間を定めます。

それに対して、1年単位の変形労働時間制は、1年間(※1)を平均して週の労働時間が40時間以内におさまっていれば、特定の日や週に1日8時間・週40時間を超えて労働させることができるという制度です。

たとえば、所定労働時間を10時間と設定した日には、10時間を超えるまで割増賃金を支払う必要はありませんから、割増賃金を節約する効果があります。

この制度は、1年間で繁忙期と閑散期がはっきりしている企業に適しています。

変形労働時間制

※1)1ヵ月を超え1年以内を対象期間として定めることができます。1年とするのが一般的です。

② あらかじめ勤務日と労働時間を決める

1年単位の変形労働時間制は、あらかじめ労働日や日ごとの労働時間を労使協定で定めておく必要があります。1年分の勤務カレンダーを作成するのが一般的です(※2)。

1年を平均して週40時間以内におさまっていればよいと説明しましたが、繁忙期に1日何時間でも設定できるわけではありません。また、休日無しで何日でも働かせてよいわけでもありません。過度に労働時間がかたよらないよう、表のように上限が決まっています。

1年単位の変形労働時間制<労働時間・労働日数に関する制限>
1日の労働時間 10時間まで
週の労働時間 52時間まで(※3
連続労働日数 6日まで(※4
1年の労働日数 280日まで

※2)1ヵ月以上の期間に区分する場合、最初の期間だけ勤務カレンダーを作り、後の期間は勤務を開始する30日前までにその期間の勤務カレンダーを労働者に周知するという方法もあります。

※3)週48時間を超える勤務は3ヵ月に3週以内などの制限がさらに設けられています。

※4)特定期間(特に繁忙な期間として定めた期間)は12日まで。

③ 注意点・デメリットは

この制度で注意すべきなのは、あらかじめ定めた労働日や労働時間は原則として変更できないという点です。

たとえば、忙しくて休日出勤する必要がある場合、通常の労働時間制では、休日を振り返ることが可能ですが、1年単位の変形労働時間制では休日の振り替えは原則としてできません。休日出勤として割増賃金を支払う必要があります。もちろん、それでもトータルで見ると割増賃金の節約効果はあるでしょう。

また、日ごと、月ごとに勤務時間が異なるため、勤怠管理や時間外労働の計算が煩雑になるというデメリットもあります。

労使協定を締結し、協定届とともに監督署へ届け出るなど、事前に必要な手続きが多い点も負担に感じる企業が多いでしょう。就業規則への規定も必要です。なお、協定届は毎年届け出る必要があります。

④ 本社一括届出がスタート

1年単位の変形労働時間制に関する協定届は、事業場単位でそれぞれの所在地を管轄する労働基準監督署に届け出る必要がありますが、令和5年2月27日から、協定の内容が同じ場合は本社において各事業場の協定届を一括して届け出ることが可能となりました。ただし電子申請による届出に限られています。

しつこいクレームや暴言にはどう対応する?

近年、顧客からの悪質なクレームなど「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題となっています。そのため、現在企業には防止措置が努力義務となっています。顧客からの暴言や脅迫などによって精神的に追い詰められ休職や退職に至るケースもあり、企業は労働者をどう守っていくか対策を講じておく必要があると言えます。

行為別に対応例を準備しておく 

パワハラやセクハラは社員教育が主な対応になりますが、カスハラはそれにくらべて顧客が対象になるため工夫が求められます。自社の業務形態や対応体制などの状況にあわせて、どういう場合にどう対応するのか、あらかじめさまざまな想定をして対応方法例を準備しておくと、現場の従業員が慌てず適切な対応をとることができます。

顧客の行為にはさまざまなパターンがあります。厚生労働省およびUAゼンセンの資料(※5)では、ハラスメント行為別に対応例を示しています。抜粋してご紹介しましょう。

◆ 長時間拘束型
長時間にわたりクレーム対応を強いる
【対応例】
膠着状態になってから一定時間を超える場合はお引き取りを願う。それでも帰らない場合は毅然と退去を求め、警察への通報を検討する。

◆ リピート型
繰り返し電話で問い合わせをしてくる。
【対応例】
連絡先を確実に取得した上で、繰り返し不合理な問い合わせがくれば注意し、次回は対応できない旨を伝える。それでも連絡が来たときはブラックリスト化して窓口を一本化。同様の問い合わせを止めることを毅然と伝え対応する。状況に応じて警察へ通報する。

◆ 暴言型
怒鳴り声をあげる、「バカ」など侮辱的発言、人格の否定
【対応例】
大声を張り上げる行為は周囲の迷惑となるため、やめるように求める。録音をすばやく実施する。程度によっては退去させる。

◆ 暴力型
殴る・蹴るのほか、殴りかかろうとする、わざとぶつかる、物を振り回す、ドアを強く開け閉めするなど
【対応例】
対応者の安全確保を優先し、警備員等と連携を取りながら複数名で対応。ただちに警察に通報する。

※5厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」 / UAゼンセン「顧客からのハラスメントの定義とその対応に関するガイドライン第2版」

(公開日 : 2023年06月20日)
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