人事労務 F/U NO.56
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主に医療機関や介護福祉関係にお勤めの方向けに、役立つ人事・労務関係の情報を定期的に配信しています。
1.障害者への合理的配慮が義務化、具体的に何をするべき?
2.クレームの初期対応
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
1障害者への合理的配慮が義務化、具体的に何をするべき?
障害者への合理的配慮が義務化されると聞きました。飲食店を営んでいますが、障害のあるお客様に具体的に何をしなければならないのでしょうか?
障害のある人から求めがあった場合に必要な配慮をおこなわなければならないというものです。具体的な配慮事項は個別に異なるので、本人と話し合って対応を決めることになります。事業者にとって過重な負担になる場合は別の対応を提案することなども可能です。
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改正障害者差別解消法が令和6年4月1日より施行されます。民間企業における合理的配慮の提供はこれまで努力義務でしたが、来年4月からは義務化されます。会社や店舗、個人事業主の場合も含み、義務化の対象です。
障害のある人は社会の中にあるバリアによって生活しづらい場合があります。バリアを取り除くために何らかの対応をして欲しいと申出があったときは、合理的配慮を行いましょうというものです。
令和6年4月より障害者差別解消法が変わります | ||
行政機関等 | 事業者 | |
不当な差別的取り扱い | 禁止 | 禁止 |
合理的配慮の提供 | 義務 | 努力義務 → 義務 |
① 合理的配慮とは
合理的配慮とは具体的にどのようなものでしょうか。たとえば次のようなものがあります。
- 弱視の人からサービスの利用契約書を読み上げて欲しいと求められ対応する
- 難聴の人から筆談によるコミュニケーションを求められ対応する
あらかじめあらゆる障害者への配慮を用意しておかなければならないということではなく、求められたときに対応すればよいとされています。
② 求められたら何でも対応しなければならない?
では、求められれば何でも対応しなければならないのかというとそうではありません。
合理的配慮は、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られています。
たとえば次のような例は合理的配慮の提供義務に反しないと考えられます。
飲食店において食事介助を求められたが、その飲食店は食事介助を事業の一環として行っていないことから、介助を断った。
また、事業者の負担が重くなりすぎない範囲でよいとされています。ただし、一方的に拒むのではなく建設的対話を通じて共に対応案を検討していくことが重要です。
たとえば次のような対応です。
小売店において、視覚障害のある人から「店内を付き添って買い物を補助してほしい」と求められた際に、混雑時のため付き添いはできないが、店員が買い物リストを書き留めて商品を準備することを提案した。
対話の際は、「前例がないから」「特別扱いはできない」といった考え方は避けましょう。また「もし何かあったら困るから」という漠然としたリスクも断る理由になりません。どのようなリスクがあり、リスク低減のためにどのような対応ができるか具体的に検討する必要があります。
合理的な理由がないのに配慮を拒否することは違法です。
③ 雇用の分野では
顧客だけではなく、従業員に対しても合理的配慮の義務はあります。
雇用の分野では、現在すでに「障害者雇用促進法」において障害のある労働者への合理的配慮の提供義務が定められています。
また採用にあたっても、面接や筆記試験などの場面で合理的配慮の義務があります。
[参考サイト・文献]※ OWL事務局記
- 障害を理由とする差別の解消の推進(内閣府)
- 厚生労働省における障害を理由とする差別の解消の推進(厚生労働省)
- 医療関係事業者向けガイドライン(るびなし)(厚生労働省)
- 医療機関における障害者への合理的配慮 事例集(厚生労働省)
2クレームの初期対応
顧客からの著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題になっています。従業員を守るという観点からも、企業がカスハラ対策に取り組むことは重要です。
① クレームをカスハラに発展させないために
顧客からのクレームをカスハラに発展させないためには現場での初期対応がポイントとなります。
まずは誠意ある対応をしつつ、状況を正確に把握し、事実確認をする必要があります。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、初期対応で注意すべきこととして次のような点を挙げています。
② (1) 限定的に謝罪する
対象となる事実、事象を明確にした上で限定的に謝罪します。
たとえば、「この度は不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」といったように、不快感を抱かせたことに謝ります。まだ正確に状況が把握できていない段階では非を認めたような発言をすることは望ましくないからです。
③ (2) 状況を正確に把握する
今後顧客と連絡が取れるように、名前・住所・連絡先などの情報を得ておきます。
その上で、顧客が主張する内容を正確に把握します。途中で発言をさえぎったり反論することはせず、まずは一通り事情を確認しましょう。話をじっくり聞くことで、顧客を落ち着かせることにもつながります。
一通り事情を聞いた後、不明確な点や不足する情報があれば追加で確認します。この時点でもし顧客に勘違いがあるのであれば、正しい情報を提供します。
話を聞く際は、冷静に穏やかに対応しましょう。
④ (3) 情報共有する
顧客から確認した情報は、現場監督者又は相談窓口対応者に共有します。
相談対応者が正確かつ迅速に状況を把握するため、現場対応者は顧客の要望だけでなく、できるだけ事実関係を時系列で整理して報告することが望まれます。
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初期対応によってはカスハラに発展するのを防ぐことができますが、中には初期の段階から暴力行為やセクハラ行為を受けるケースもあります。そのようなときはすぐに現場監督者に引き継ぎ、一人で対応しないようにすることが重要です。
[参考サイト・文献]※ OWL事務局記