会計力 F/U NO.7

絵でつかむ会計力リーダー養成講座 フォローアップ
≪決算書の簡易診断≫
上場している様々な企業の決算書の簡易診断結果を提供しています。

決算書の簡易診断 No.7 株式会社スズケン

株式会社スズケン 簡易B/S、P/L

【決算書の簡易診断とは】

  1. 実在する企業の決算書(主に貸借対照表と損益計算書)の中身を4つのチェックポイントから簡易的に経営診断したものです。各チェックポイントを独自の判断により「優」「良」「可」「不可」の4段階で評価しています。
  2. 簡易診断結果は十分な経営分析ではありません。参考としてご覧ください。


【チェックポイント1】債務超過に陥っていないか?

  1. 2019年度3月期時点の負債純資産合計は1兆1,892億円で、対前年度+159億円の増加となっています。
  2. そのうち、負債合計は7,876億円(対前年度+207億円)、自己資本(純資産)は4,016億円(対前年度▲48億円)です。負債純資産合計よりも負債合計が小さいので債務超過ではありません。
  3. 自己資本比率は33.8%(※自己資本=純資産としています)で、前年度より▲0.9ポイント減となっています。
  4. 年商10億円以上の卸売業の2018年度の自己資本比率の平均値33.8%(財務省の法人企業統計調査による)と同水準です。
評価「可」

【チェックポイント2】営業利益・経常利益は黒字か?

  1. 当期の本業の基礎収益力を表す営業利益は272億円の黒字で、対前年度+75億円の増加となっています。売上高営業利益率は1.3%で、対前年度+0.3ポイントの上昇です。
  2. 当期の正常収益力を表す経常利益は362億の黒字で、対前年度+71億円の増益です。
  3. 売上高経常利益率は1.7%で+0.3ポイントの上昇です。
  4. 前述の調査によると2018年度の売上高営業利益率と売上高経常利益率の平均値は、それぞれ1.0%、2.8%です。それらと比較すると、経常利益率が低い水準にあると言えます。
評価「可」

【チェックポイント3】損益分岐点比率は100%を下回っているか?

  1. 損益分岐点比率は80.9%でまずまずの水準です。対前年度では▲3.6ポイントの大幅改善となっており、生産性の向上が伺えます。
評価「良」

【チェックポイント4】現・預金残高は月商(ひと月の売上高)の1.5ヶ月分あるか?

  1. 運転資金や手形の不渡りなどの不時に備えた手元現預金月商倍率は1.20ヶ月(対前年度+0.09ヵ月)で、判断基準値1.50ヶ月を少し下回っています。事業規模にしては手元の現預金のストックが少ない印象です。
評価「不可」

【総合評価】

  1. 2019年3月期は対前年度で増収増益の良い経営成績です。貢献利益の伸びを確保する一方で販売費及び一般管理費を削減しています。生産性の向上に取り組み、採算構造のシンボル指標である損益分岐点比率を引き下げ(=改善)していることが分かります。
  2. しかしながら、売上に対する経常利益率は、年商10億円以上の卸売業の平均値と比べるとやや低く、採算構造はまだ改善の余地がありそうです。
  3. 財務面では、自己資金(利益剰余金)の伸び(+241億円)を確保したものの、当期は自己株式の取得(▲205億円)を実施した影響が大きく、自己資本(純資産)が減少(▲48億円)しています。
  4. 一方、負債が増加しました。ただし、増加の主な原因は支払手形及び買掛金の増加(+244億円)です。新たに資金を調達する借入金とは異なり、支払いまでの期間を延ばすことで手元資金の減少を遅れさせています。どちらも将来的には支払う(返す)ものなので負債ですが、買掛金などの仕入債務は、借入金と異なり調達コスト(利息など)がかからない点に注目です。
  5. 自己株式の取得は自己資本(純資産)の減少を招きますが、敵対的買収への対抗や収益性指標などの改善などにつながります。負債も増加したことで自己資本比率が下がりましたが、業界平均値の水準を保っておりまずまずです。
評価「可」

【その他】

  1. 今回も医薬品の卸業を主軸とする企業を取り扱いました。これまでに取り上げたアルフレッサホールディングス・メディパルホールディングスと同様に貢献利益率に注目すると、スズケンも対前年度+0.1ポイントの改善となっています。
  2. 参考までに、医薬品卸売事業に限って見ると、売上高(内部取引除く)は前年度1兆9,798億円から当年度1兆9,932億円の+134億円の増収で、営業利益(内部取引除く)は前年度144億円から229億円と+85億円の増加です。ここから販売費及び一般管理費の▲57億円による増加効果をすべて差し引いても+28億円の増加となります。
  3. 2018年度(2018年4月~2019年3月)の診療報酬改定による薬価等のマイナス改定(▲1.33%)のなか、利益率が上がった背景には少なからず医療機関の負担増があると言えるでしょう。
  4. 医薬品等の売値を自由に変えることの出来ない医療機関は、自身の貢献利益を守るために、卸業者ときちんと交渉し、適正な価格で仕入れることが必要です。


  5. 会計の本質的な部分を理解し、貸借対照表と損益計算書の中身を読み解く力をつけることで、より詳細な分析を行うことができます。「絵でつかむ会計力リーダー養成講座」をまだ受講されていない方は是非ご検討ください。


    また、診療報酬改定に関する情報は「会員制倶楽部オベリスク」にて随時配信中です。ご興味のある方は併せてご検討ください。

(公開日 : 2020年01月27日)