人事労務Ⅰ F/U NO.19

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新型コロナウイルス感染症ワクチンとその接種体制-改正予防接種法案の概要-

(執筆者)日本医師会総合政策研究機構 主任研究員 王子野麻代

(法律監修)銀座中央総合法律事務所 弁護士 高山烈


第2波の落ち着きも束の間、感染者数が再び増加傾向にあるなか、米国ファイザーが開発中の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験について暫定的な結果を発表したことで(注1)、ワクチンへの期待が一層高まっている。すでに日本政府は新型コロナウイルス感染症のワクチンの確保を進めており、米国ファイザー社のワクチンはその一つである。その他モデルナ社とアストラゼネカ社などのワクチン確保にも動いている。同時に、これらのワクチン接種を根拠づけるための改正予防接種法案(注2)が10月27日に閣議決定され、臨時国会(注3)で成立する見通しである。政府は来年前半には運用を始めたい考えで、法案成立後には各地域においてワクチン接種体制の構築が急ピッチで進められることになる。

そこで本稿では、現在政府が準備をしている3つのワクチンに関する情報とともに、その接種体制について改正予防接種法案をもとに解説する。


1.新型コロナウイルス感染症のワクチン情報(注4

新型コロナウイルス感染症のワクチンについては、国内外で様々な開発の動きがある。現在、日本政府が確保に乗り出しているワクチンは3つある。モデルナ社、米国ファイザー社、アストラゼネカ社であり、このうち契約に至っているものはモデルナ社のみであるが、ほか2社とは基本合意を終え、着実に数量確保が進んでいる。

いずれのワクチンも、一定の液性免疫(抗体)、細胞性免疫が誘導されているが、誘導された免疫による発症予防効果や重症化予防効果の有無、免疫の持続期間についてはまだ評価されておらず不明である。安全性については、接種後の局所部位反応の発現頻度が高く、倦怠感、不快感、筋肉痛、頭痛など重篤でない全身性の有害事象が高頻度(数十%以上)で発現している。また、小児・妊婦・高齢者についてはデータが少なく、有効性も安全性も未だ不明な点が多い。


2.新型コロナウイルス感染症のワクチン接種体制

改正予防接種法案(注2)における改正点は大きく2つある。1つは、新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について、臨時接種に関する特例が設けられることである。臨時接種とは、感染症のまん延予防上緊急の必要があると認めるときに実施するものであり、実施主体は市町村長の場合と都道府県知事の場合がある。市町村長が実施する場合には国と都道府県と市町村がそれぞれ3分の1ずつ接種費用を負担し、都道府県知事が実施する場合には国と都道府県がそれぞれ2分の1ずつ接種費用を負担する仕組みである。

今回の新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、この臨時接種の枠組みを基本としつつも、厚生労働大臣の指示のもと都道府県知事の協力により市町村長が実施し、接種費用は全額国が負担するという本来とは異なる運用をするため、改正法案において臨時接種の特例が設けられることとなった。ワクチン接種により健康被害が生じた場合の救済措置や副反応疑い報告等については、現行規定が適用される。また、国が国民に対してワクチン接種を勧奨するとともに、努力義務を課していることも本来の臨時接種と同様であるが、新型コロナウイルス感染症ワクチンでは予防接種の有効性及び安全性に関する情報等を踏まえ、接種勧奨及び努力義務を政令で適用しないことができるとされている。

もう1つの改正点は、政府は、ワクチンの使用による健康被害に係る損害を賠償すること等によって生じた製造販売業者等の損失を補償することを約する契約を締結できることである。前述のとおり、ワクチン接種により健康被害が生じた場合、予防接種法上の健康被害救済制度(注5)があるが、それでは完全な救済とはいえないこともある。被害者は製造販売業者等に対して損害賠償請求をすることができるが、それよる製造販売業者等の損失を国が補償することが契約により可能となる。


3.おわりに

本稿では、現在政府が供給準備をしている3つのワクチンに関する情報とともに、その接種体制について改正予防接種法案をもとに解説した。臨時国会において法案成立後、新型コロナウイルス感染症ワクチンは予防接種法における臨時接種の特例として、各地域において具体的な運用体制が構築されることになる。

政府による全国民のワクチンを確保するという説明はまるで全ての国民が接種しなければならないような印象を受けるが、具体的な運用体制はまだ定まっていない。たとえば、英国では18歳未満はワクチン接種の対象外とし、成人のみを対象とする考えで、中でも50歳を超える人や医療従事者など感染リスクがあると考えられる人たちを中心としており(注6)、これに対して日本ではどのような方針となるかが今後注目される。

なにより、ワクチンを接種するかどうか最終的な判断は、個々人の意思に委ねられる(注7,7)。そして、その意思決定過程において専門的助言の役割を担うのが現場の医師である。ワクチン接種により一定数の方に副反応が生じることが自然の理だとしても、避けられる健康被害は避けるべきである。前述したように、特に新型コロナウイルス感染症に対して重症化や死亡リスクが高いとされる高齢者、小児や妊婦に対する副反応については臨床試験のデータが少なく、有効性も安全性も未だ不明な点が多い。国において副反応に関する積極的かつ迅速な情報提供と説明責任が果たされるよう期待する。


[脚注]