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≪サーバー保守学≫
医療現場のサーバーやシステム保守運用業務に役立つ情報を定期的に配信しています。
サーバ保守学(29)
(執筆者)亀田医療情報株式会社 塚田智
みなさん、こんにちは、サーバー保守学第29回です。新型コロナウイルスの感染流行は、感染者が少なく落ち着いた状況が続いています。レストランや観光地にも人が増え始め、従来の日常を取り戻しつつあるように思います。医療施設では、コロナ感染で入院している人が減少し、それぞれに本来の医療を再開しつつあることでしょう。今後また感染流行があるかも知れませんが、これまでのコロナ対応を考慮して、これからの自施設の役割と業務を考えてみてはいかがでしょうか。それには、ITの積極的な活用を前提にしましょう。
さて、今回は、10月20日から本格的に開始されたオンライン資格確認の話題です。医療施設における保険確認業務の効率化や、今後の健康情報共有の基盤として期待されるオンライン資格確認ですが、新しい仕組みだけに開始当初の混乱もあるようです。現時点で、導入時にどのような考慮点があるか確認しておきましょう。
オンライン資格確認 導入の考慮点
1.複数社との契約
オンライン資格確認を実施するには、以下のような構成要素があります。
- オンライン資格確認端末
- マイナンバーカードによる顔認証端末
- ルーターなどの施設内ネットワークの機器
- 審査支払機関へ接続する外部ネットワーク
- 保険情報を確認する医事会計システム
- 特定健診・薬剤情報を参照する電子カルテシステム
これら複数の機器やシステムが連携するため、契約先が多くなります。1から3を1つの業者でまとめている場合が多いようですが、それでも4社との契約が必要です。さらに補助金の申請もあり、システム管理者にとって面倒だと思うことも多いでしょう。
今後も継続して、自施設で運用していくシステムですので、内容を理解するためにも、システム管理者が各社との調整をするべきです。しかし、今回だけの対応だと考えられる部分も多くあります。また、新しい仕組みで制度やシステムの変更が多く、その情報を逐一理解し、対処するのは難しいように思います。このような状況ですので、今回は外部の業者に全体の取りまとめを依頼することでも良いと思います。
2.ネットワークとルーターの設置
外部ネットワークとしては、既存のレセプト電算システムと同じものを利用できますので、大きな変更はないでしょう。しかし、レセプト電算にISDNを利用していた場合は、新規に外部ネットーワークが必要です。また、レセプト電算を利用するときのみネットワークに接続していた場合は、これからは常時接続になるためセキュリティの設定の見直しなどが必要です。
オンライン資格確認のためには、施設内に2つのルーターが必要になります。1つは、外部ネットワークとオンライン資格確認端末を接続するためのルーターです。もう1つは、オンライン資格確認端末と医事システムや電子カルテシステムを接続するためのルーターです。施設内で利用中のIPアドレスなど必要な情報を提供すれば、業者が適切に設定してくれます。
ルーターが適切に設定されていれば、インターネットを経由して外部から施設内に侵入されることありません。また、施設内から不必要に外部へ接続しデータ転送することもできません。オンライン資格確認を安全に利用するためにはルーターの設定がとても重要です。反対にルーターの設定を間違えると外部から侵入される危険性があります。業者によるルーターの設定を、システム管理者が修正する必要は当分ないと思いますが、施設内のネットワークは今後も変更する可能性があります。業者が行う設定内容を事前に確認した上で、設定後は文書として残しておきましょう。
3.本稼働前のテスト
どんなシステムでも稼働前にテストが必要です。オンライン資格確認もテストが必要ですが、関連するシステムが多いため日程調整に苦労することでしょう。稼働日を決めたら、早めに業者へ連絡して日程調整を依頼しましょう。電子カルテなどは、リモート接続でテストすることで、調整が楽になることもあります。
複数の業者が居れば、業者ごとにテストする項目が異なります。事前に、業者ごとのテスト項目を確認して、システム全体としてテストの漏れがないか、現実の運用に合ったテストが漏れなく実施されるか、確認しておきましょう。その前提として、自施設でどのような機能を使い、どのような業務フローにするか決めておかなくてはなりません。
オンライン資格確認のサーバー側で、本稼働とは別のテストサイトが準備されています。しかし、テスト患者の保険者番号が実在しない番号のために、医事システムでエラーになってテストできないことがありました。また、本稼働環境とテスト環境の切り替え方法が複雑で簡単には切り替え出来ません。テスト環境が不安定で期待したように動かないこともありました。これらのことから、本稼働環境を使ってテストすることをお勧めします。
テストでは、本物のマイナンバーカードが必要になります。テスト用のマイナンバーカードというものは存在しません。業者の担当者のマイナンバーカードを使うことも考えられますが、個人の所有物ですし、テストの前に患者登録しないといけないなどの手間もあります。現実的には、自施設の職員のマイナンバーカードを使ってテストすることが多いようです。さらに、特定健診、薬剤情報を利用する場合は、テスト患者がそれらの情報を持っていることを確認しておきましょう。特に、薬剤情報は今年9月以降の情報しか取得できませんので注意が必要です。
オンライン資格確認は、これから情報連携の範囲を拡大していく予定です。来年夏には手術、移植、透析、医療機関名といった項目が追加されます。さらに2023年1月には、これを基盤として、電子処方箋の仕組みが構築される予定です。今後の発展を楽しみにするとともに、これらを利用して患者さんにより良い医療を提供する方法を考えましょう。