決算書の簡易診断　No.21　日本光電工業株式会社

【決算書の簡易診断とは】

1. 実在する企業の決算書（主に貸借対照表と損益計算書）の中身を4つのチェックポイントから簡易的に経営診断したものです。各チェックポイントを独自の判断により「優」「良」「可」「不可」の4段階で評価しています。
2. 簡易診断結果は十分な経営分析ではありません。参考としてご覧ください。

【チェックポイント１】債務超過に陥っていないか？

1. 2020年度3月期時点の総資産（＝負債と純資産の合計）は1,678億円で、対前年度▲19億円の減少となっています。
2. そのうち、負債合計は460億円（対前年度▲76億円）、自己資本（純資産）は1,161億円（対前年度＋57億円）です。総資産額よりも負債合計額が小さいので債務超過ではありません。
3. 負債減、自己資本増の相乗効果により、財務体質のシンボルである自己資本比率（※自己資本＝純資産としています）は、対前年度＋4.2ポイントと大きく改善し、72.6％に上昇しています。厚労省が発表している医薬品・医療機器産業実態調査によると、資本金規模が10億～50億円の医療機器製造販売業の自己資本比率の平均値は47.6％（2018年度）となっています。平均値を大きく上回る水準となっており優秀です。

【チェックポイント２】営業利益・経常利益は黒字か？

1. 当期の本業の基礎収益力を表す営業利益は155億円で、対前年度＋5億円と増加しています。
2. 売上高営業利益率は対前月比±0の横ばいで、8.4％を維持しました。
3. 当期の正常収益力を表す経常利益は148億円の黒字ですが、対前年度▲10億円の減益です。
4. 売上高経常利益率は対前年度▲0.8ポイントとなり、8.0％に下がっています。
5. 前述調査によると2018年度の売上高営業利益率と売上高経常利益率の平均値は、それぞれ7.0％、7.2％です。それらと比較すると、経常利益率は平均値を上回る良い水準です。

【チェックポイント３】損益分岐点比率は100％を下回っているか？

1. 採算構造のシンボルである損益分岐点比率は、対前年度＋1.8ポイントとなり、83.4％に上昇しています。前述調査による損益分岐点比率の平均値78.5％を上回る水準です。
2. 固定費の増加をカバーするだけの貢献利益の増加を確保できておらず、生産性の改善に課題があります。

【チェックポイント４】現・預金残高は月商（ひと月の売上高）の1.5ヶ月分あるか？

1. 運転資金や手形の不渡りなどの不時に備えた手元現預金月商倍率は、対前年度+0.10ヶ月で1.36ヶ月に上昇しました。
2. 判断基準値である1.50ヶ月を少し下回る水準ですが、流動比率（＝流動資産÷流動負債×100）は320％と高い水準を示しており、今のところ問題はないかと思われます。

【総合評価】

1. 売上高が対前年度＋62億円の増収となる一方、変動費は＋29億円の増加となりました。
2. 売上高貢献利益率は対前年度から＋0.2ポイントの改善となっており、48.3％に上昇しています。前述調査による平均値33.5％を上回る良い水準です。
3. しかしながら、固定費回収パワーである貢献利益の増加（＋34億円）以上に、固定費が+44億円の増加となったため、採算構造（損益分岐点比率）は悪化し、当期の経常利益は減益（▲10億円）となりました。2020年3月期は対前年度で増収減益のあまり良くない経営成績でした。固定費増の主因は人件費であることから、人的資源への投資の一面もあります。今後の生産性改善に期待されます。
4. 財務面では、利益剰余金の積み上げ（自己資本増）と流動資産の圧縮（売掛金の回収）で調達した資金を使って負債（支払手形及び買掛金）を減らすことで、財務体質（自己資本比率）を改善させました。

【その他】

1. 2020年4月は初となる中間年での薬価改定が行われます。本改定の改定率は厚労省から公表されていませんが、医療費ベースでは1％程度の引き下げと報道されています。過去のフォローアップでも取り上げているように、卸業者はコロナ禍においても増収増益をしっかりと確保しています。既に卸業者との仕入れ価格の交渉に取り掛かっている医療機関もあるかと思いますが、仕入値交渉には毅然として取り組みましょう。
2. 新型コロナウイルスワクチン接種がなかなか普及しない中、緊急事態宣言は解除されました。再び感染者数が増える恐れもありますので、引き続き感染予防対策に取り組み、スタッフの健康管理に留意しましょう。




会計の本質的な部分を理解し、貸借対照表と損益計算書の中身を読み解く力をつけることで、より詳細な分析を行うことができます。「絵でつかむ会計力リーダー養成講座」をまだ受講されていない方は是非ご検討ください。