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[事例研究]無給医と法律
マスコミの無給医報道が賑やかである。この問題を巷の法律の眼で眺めてみたい。
1.無給医の定義
論ずるに当たって、まず無給医を定義しなければならない。文科省の[大学病院で診療に従事する教育等以外の医師・歯科医師に対する処遇に関する調査結果]によれば、「無給医とは、医療現場で診療行為を行っているにもかかわらず給与が支給されていない医師」と定義されている。この定義が正しいとは限らないが、無給医の中には、診療に従事しない医師は含まれていない。
2.無給医は労働者か
次に、無給医は労働者であるかどうかの検討が必要である。
それには関西医科大学研修医事件の最高裁平成17年6月5日の判決が参考になる。
同判決では、「研修医は労働者に当たる」と決せられた。研修医ですらそうであるから、通常の医師は言うまでもない。
3.法律違反
文科省は無給医を労働性の観点から(1)給与を支払われないことが合理的と考えられる医師、(2)給与を支払われるべきであったにもかかわらず、支払いを受けていなかった医師、(3)そのどちらか判定不能の3つにセグメントしている。
しかし、大学病院が臨床病院であるとともに教育・研究病院であること、地域医療に対する医師の供給源とならざるを得ないこと等多くの悩みがあるのも事実だろう。これらの状況を踏まえた労働者性については、医と法での法理論的な論点整理を望みたい。
それを除いても、(2)の支払われるべき者へ、給与を支払わなかったことは、労働基準法や最低賃金法に違反する行為であることは避けられない。もしかすると健康保険法等への抵触もあるかもしれない。
4.ガバナンス力
民間の企業で、このようなことが発生するとコンプライアンス違反に問われ大騒ぎとなる。場合によっては不当経理や監査体制を問われるかもしれない。経営陣には責任を取らされる人も出てくる。
ところが文科省調査によると、「事後指導・処理」で終結となるようである。どうしてこのような差が生じるのかは、社会学的に見て興味あるテーマである。
一方で支払われるべき者に給与を支払わなかった問題が明らかに存在するのは108大学病院中27病院。約25%であり、残りの75%には発生していない可能性がある。つまり、大学病院のガバナンス監理は世間的に遅れているが、大学病院の中でもガバナンス力に差がついているのではないかと推測される。
150年に亘る歴史の中で、大学医学部や大学病院の制度やシステムは形成されてきた。見るべきものも多い。そして今、大学医学部や大学病院には数々の難問が押し寄せてきている。このことは、「角を矯めて牛を殺す」ことを避けつつ、大胆なガバナンス改革に取り組む良い機会だと考える。