人事労務Ⅰ F/U NO.8

人事労務基礎講座Ⅰ フォローアップ
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[法律情報]新型コロナウィルス肺炎患者と感染症サーベイランス

(執筆者)日本医師会総合政策研究機構 主任研究員 王子野麻代 / 日本医師会常任理事 石川広己

(法律監修)銀座中央総合法律事務所 弁護士 高山烈


昨年暮れから中国武漢市で猛威をふるっている原因不明の肺炎は、新型コロナウィルスであることが判明し、その脅威は中国を超えて世界各国に広がっている。1月23日現在、感染者数500人を超え、17人が亡くなった(注1)。患者の症状は、発熱、全身倦怠感、乾いた咳であるが、入院患者には呼吸困難も多い(注2)。死亡例の患者情報も一部明らかになってきた(注3)。1例目は61歳男性で基礎疾患(既往歴に腹部腫瘍と慢性肝疾患、呼吸器循環不全)あり。2例目は69歳男性で基礎疾患(多臓器不全・心筋炎・胸膜壁肥厚・肺線維病変)あり。4例目は89歳男性で基礎疾患(糖尿病・心疾患)あり。なお、3例目の患者情報は公表されていない。さらに、中国では患者を介して医療従事者にも感染被害が広がる事態が起きている(注4)。

日本においても、中国武漢市に渡航歴のある神奈川県在住の男性(30代)の感染患者が確認されたが、1月15日には症状が軽快し退院している(注5)。厚生労働省は21日、「持続的なヒトからヒトへの感染は確認されていない(家族間などの限定的なヒトからヒトへの感染の可能性は否定できない)」という見解を示した(注3)。一方、世界保健機関(WHO)は21日、「持続的な人から人への感染が起きている可能性がある」として、22日から23日にかけて緊急会合において協議を行っていたが(注1)、24日未明、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」には該当しないと発表した(注6)。今回の発表について、WHO事務局長は、「中国国外で人から人への感染が確認されていないことから『現時点で国際的なレベルでの緊急事態にはなっていない』」と判断したとしており(注7)、今後も動向が注目される。

24日、WHOの発表の一方、日本では第2例目の患者が確認された(注8)。武漢市から観光で来日した40代の男性で、現在は東京都内の医療機関に入院している。

新型コロナウィルスの脅威が拡大の一途をたどるなか、これから春節の時期に入る。昨年のこの時期、中国から日本への渡航者は70万人を超えていた(注9)こともあり、より一層の感染拡大が懸念されている。


空港では、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、サーモグラフィによる発熱者の検知に加え、武漢市から帰国された方で咳や発熱等の症状がある、あるいは咳止めや解熱剤を服用している場合は検疫官に申し出るよう促し(注10)、検疫体制を強化している。ただ、症状が現れる前の潜伏期間中に入国して国内で発症する可能性も考えると、現在行っている入国前の水際作戦には一定の限界がある。

実際、日本での第1例目患者は武漢市滞在中に発熱して、帰国時に解熱剤を服用しており、検疫所のサーモグラフィ検査で異常を指摘されなかった(注11)。帰国日に医療機関を受診した際、渡航歴を申告したことを契機に、国立感染症研究所の検体検査を経て感染が確認されるに至っていた(注4)。感染症法に基づく疑似症サーベイランスが機能した事例であるが、今後の感染拡大に備え、疑似症サーベイランスが十分機能するためには患者の協力と医療機関の十分な理解と警戒が必要不可欠である。

感染症法第12条第1項は、一類から四類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者および無症状病原体保有者、新感染症の疑いのある患者を診断した医師は、患者の氏名、年齢、性別などを直ちに保健所に届出なければならないこと等を規定している。


感染症法
第十二条 医師は、次に掲げる者を診断したときは、厚生労働省令で定める場合を除き、第一号に掲げる者については直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を、第二号に掲げる者については七日以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない
一類感染症の患者、二類感染症、三類感染症又は四類感染症の患者又は無症状病原体保有者、厚生労働省令で定める五類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者及び新感染症にかかっていると疑われる者
厚生労働省令で定める五類感染症の患者(厚生労働省令で定める五類感染症の無症状病原体保有者を含む。)

※傍線は筆者によるもの


殊、新型コロナウィルス肺炎の疑い患者等への対応にあたっては、厚生労働省は、下図のとおり「疑い例のスクリーニング」基準を示し、中等度以上の患者については疑似症サーベイランスの運用について保健所への相談を促している。武漢市に滞在歴があり、呼吸器症状を発症して医療機関を受診した患者については、新型コロナウィルスに関連する肺炎を念頭においた診療を行い、下図の「疑い例のスクリーニング」および「疑似症サーベイランスの運用ガイダンス第三版」(以下、参考資料)をご参照いただきたい。


新型コロナウィルスに関する情報は、時々刻々と変化している。今後、新たな情報や方針等が示されることも大いに考えられるため、厚生労働省等ホームページに掲載される最新情報に留意されたい。


図:新型コロナウイルス関連肺炎の疑い例のスクリーニング

新型コロナウイルス関連肺炎の疑い例のスクリーニング

[参考資料]

    • (6)感染症サーベイランス情報

    [1]感染症法に基づく発生動向調査(国立感染症研究所)

    [2]薬局サーベイランス(注12)

    [3]ORCA(オルカ)サーベイランス(注13)


  • [脚注]

    • (注4)「WHO『新型肺炎、人から人に』感染力増大懸念も」(2020年1月22日)(日本経済新聞)
      (注11)「新型肺炎で検疫強化 厚労省、要観察者に発熱なし」(2020年1月20日)(日本経済新聞)
      (注12)薬局サーベイランスとは、薬局での調剤情報を集計することでインフルエンザ患者数を推計したもの。運営主体は公益社団法人日本医師会、公益社団法人日本薬剤師会、日本大学薬学部薬学研究科、株式会社EMシステムズの4者による共同運用。参加薬局数は全国10,064薬局(全薬局の20.17%:2015年1月1日現在)。サーベイ対象の薬効分類は、総合感冒薬、解熱鎮痛剤、抗生物質、タミフル・リレンザ、アシクロビル製剤等。毎日の調剤状況から個人情報を除き、特定の薬効分類での処方箋枚数を年齢別、政令指定都市別、都道府県別に集計している。
      (注13)ORCA(オルカ)サーベイランスは、全国の参加医療機関から送信される感染症等のデータを地図やCSVデータで公表するサービスである。運営主体は日本医師会ORCA管理機構である。参加薬局数は全国4,181医療機関が参加(日レセ導入医療機関の24.5%/全医療機関の4.2%:2018年10月現在)。サーベイ対象は、インフルエンザ、手足口病、伝染性紅斑(りんご病)、咽頭結膜熱(プール熱)、RSウィルス、麻疹、風疹、熱中症である。日医標準レセプトソフトへの日々の入力(検査・投薬・傷病名)から症例の地域的な集積を探知して、定点調査の安全なネットワークで自動収集している。迅速かつ参加医療機関や医師に負担がかからないシステムであり、数日間の累積を集計したマップと、診察終了後に最短約30分で反映されるリアルタイムのマップも提供している。