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[法律情報]発明にチャレンジしてみませんか

(執筆者)日本医師会総合政策研究機構 主任研究員 吉田澄人


1. 発明なくして進化なし。医療も同じである。発明の母は、ひらめき・アイデア。現場での医師のアイデアをいかに企業の組織力につなげるかの医工連携が鍵である。


2. 生まれたアイデアは大事に育てること。医師のまわりではアイデア窃盗のトラブルが多い、。雄弁より沈思黙考。まず、そのアイデアを具体的に「物」の発明につなげるか、「方法」の発明につなげるか考える。「物」とは治療機器、診断機器、装置の部品、プログラム。「方法」とは検査方法。治療方法は特許と認められないので要注意。


3. アイデアがまとまったら、思い込み防止のため信頼できる極く少数の人に意見を求めても良い。いける!と思ったら次に特許の出願。これは学会や論文の発表の前に行わないと意味がない。


4. 次は出願のプロセスになってくる。ここから先は勤務医と開業医でプロセスが違う。勤務医なら、まず所属先の知財部門と相談して、研究のパートナーや出願者・権利の帰属などについて決める。
知財部門がなければ以下の開業医に準じる。


5. 開業医であれば、次の3つの選択肢がある。

(1)日本医師会「医師主導による医療機器開発支援窓口」(担当:吉田)に相談。

(2)「一般社団発明推進協会」(都道府県の発明協会)に相談。

(3)知り合いの弁理士に相談。


6. 出願のプロセスで企業との接触が必要になってくるケースが多い。
その場合、秘密保持契約を結ぶことが必要になる。


7. 企業とのパートナーシップの結果、出同出願という方向性になった場合には次のようないくつかのハードルを越えなければならない。

(1)発明者あるいは共同発明者であることの認定。

(2)特許権の所在の認定。

(3)出願者としての要件の認定。

(4)特許・発明の技術的範囲の設定。

(5)発明の市場性の論証。

(6)費用分担。

いずれも、助言や代行が必要になってくることが多い。


8. 医師は製品の製造・販売では利益をあげられないので、次のような企業との契約によって権利を確保することになる。

(1)ライセンス契約。

(2)ノウハウ提供契約。

(3)アソバイザー契約。

(4)クレジット付与契約。

(5)学術契約のインセンティブ契約。

これらについても助言者が必要とされることが多い。


9. 外国での権利化、つまり国際出願には、「国内出願から1年以内の壁」や「費用の壁」などがあるが、夢ではない。費用については国際出願に係わる費用の補助の制度がある。


10. 知的財産権は個人の権利であると同時に、社会的共有財産でもある。三方良しの精神で、アイデアから製品化に至る渋滞や事故を少なくし、社会全体の発明の生産性を高めていくことが医療の質の国際競争力を確保する上で重要である。


知的財産権とは
知的財産権制度とは、知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための制度です。「知的財産」及び「知的財産権」は、知的財産基本法において次のとおり定義されています。
知的財産基本法
第2条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。
2 この法律で「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。
引用元:「知的財産権について」(特許庁)
(公開日 : 2020年01月28日)