人事労務Ⅰ F/U NO.12

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[事例研究]入れ墨は医行為か?

(執筆者)日本医師会総合政策研究機構 弁護士 水谷渉


1.入れ墨と「医行為」

入れ墨を施す彫師の施術が、医師法17条の医行為(注1)にあたるかどうかが刑事裁判で争われたケースがある。

第一審の大阪地方裁判所は、「医師でないのに、業として、平成26年7月6日頃から平成27年3月8日頃までの間、大阪府タトゥーショップ「A」において、4回にわたり、Bほか2名に対し、針を取り付けた施術用具を用いてBらの左上腕部等の皮膚に色素を注入する医行為を行い、もって医業をなした」として、平成29年9月27日、 男性に罰金15万円の判決を言い渡した。


2.第一審判決(有罪)

入れ墨が「医行為」であるとするのは奇異に聞こえる。一般には、「医」とは、病気やケガの治療や健康の予防や増進を目的として行われるからである。それにもかかわらず、刺青が「医行為」であり、医師でなければなしえないとするのは違和感を禁じ得ない。なぜ第一審は入れ墨を医行為としたのか、その理由を見てみよう。


男性が行った施術方法は、タトゥーマシンと呼ばれる施術用具を用い、先端に色素を付けた針を連続的に多数回皮膚内の真皮部分まで突き刺すことで、色素を真皮内に注入し定着させるといういわゆる入れ墨を施すことである。

このような入れ墨は、必然的に皮膚表面の角層のバリア機能を損ない、真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため、細菌やウイルス等が侵入しやすくなり、また、被施術者が様々な皮膚障害等を引き起こす危険性を有している。本件行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることは明らかである。したがって、入れ墨の施術に当たり、その危険性を十分に理解し、適切な判断や対応を行うためには、医学的知識及び技能が必要不可欠である。


よって、本件行為は、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるから、「医行為」に当たるというべきである。


3.控訴審判決(逆転無罪)

これに対し、平成30年11月14日、大阪高等裁判所は、入れ墨の施術は「医行為」ではないとして、男性に対し逆転無罪を言い渡した。その理由を見てみよう。


「入れ墨(タトゥー)は、地域の風習や歴史的ないし風俗的な土壌の下で、古来行われてきており、我が国においても、それなりに歴史的な背景を有するものであり、1840年代頃には彫り師という職業が社会的に確立したといわれている。我が国では、ある時期以降、反社会的勢力の構成員が入れ墨を入れるというイメージが社会に定着したことなどに由来すると思われるが、世間一般に入れ墨に対する否定的な見方が少なからず存在することは否定できない。他方で、外国での流行等の影響もあって、昨今では、若者を中心にファッション感覚から、あるいは、個々人の様々な心情の象徴として、タトゥーの名の下に入れ墨の施術を受ける者が以前より増加している状況もうかがわれる。そのような中で、入れ墨(タトゥー)を自己の身体に施すことを希望する人々の需要に応えるものとして、タトゥー施術業がそれ相応に存在している。

このように、入れ墨(タトゥー)は、皮膚の真皮に色素を注入するという身体に侵襲を伴うものであるが、その歴史や現代社会における位置づけに照らすと、装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義があり、また、社会的な風俗という実態があって、それが医療を目的とする行為ではないこと、そして、医療と何らかの関連を有する行為であるとはおよそ考えられてこなかったことは、いずれも明らかというべきである。彫り師やタトゥー施術業は、医師とは全く独立して存在してきたし、現在においても存在しており、また、社会通念に照らし、入れ墨(タトゥー)の施術が医師によって行われるものというのは、常識的にも考え難いことであるといわざるを得ない。

(中略)

この点からも、医師免許を取得した者が、入れ墨(タトゥー)の施術に内在する美的要素をも修養し、入れ墨(タトゥー)の施術を業として行うという事態は、現実的に想定し難いし、医師をしてこのような行為を独占的に行わせることが相当とも考えられない。」


控訴審判決は、一般常識に沿う判断が示されている。たしかに、医療機関において、医師や診療の補助として看護師が入れ墨を施す光景は想像し難い。


4.どのように考えるべきか

これまでの裁判所の解釈によれば、「眉墨」(「アートメイク」と呼ばれる)は、「医行為」に当たるとされてきた。ピアスの穴あけ、これも「医行為」に当たるとされている。

とくに、アートメイクに関しては、 独立行政法人国民生活センターが運営する国消費生活情報ネットワークシステムにも、2006年からの5年間で121件の苦情が寄せられている。 独立法人国民生活センターのホームページ(注2)をのぞいてみよう。


【事例1】施術部位が化膿(かのう)した

人の口コミで知った店で、眉のアートメイクを受けた。3回で1コース。1回目の施術は問題なかったが、2回目の施術後化膿した。皮膚科の診察を受けて、針や色素に問題がある可能性があるといわれた。いわゆる刺青と同じなので本来は医療行為だとは知っているが、医院で行うと倍の費用がかかる。顔が腫れたので仕事もキャンセルした。

【事例2】角膜に傷がついた

フリーペーパーの広告に載っていたエステサロンでアイラインのアートメイクをした。施術中に痛みがあり、痛いと言ったにもかかわらずそのまま施術された。終了後、軟膏(なんこう)のようなものを塗られ、視野が曇っていると言ったら軟膏のせいだと言われ帰宅した。しかし、痛みと涙が止まらないので救急で眼科に行ったところ、角膜が傷ついていることがわかった。


このように国民の「危害」は現実に存在している。

厚労省は、平成13年に政局医事課長通知で、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」は、医師法第17条に違反するとしている(平成13年11月8日医政医発第105号(注3))。

また、裁判所は、アートメイクの施術者を医師法17条違反で処罰してきた(たとえば、東京地方裁判所平成2年3月9日、判例時報1370号159頁)。入れ墨の施術を国家として規制し、国民の健康を守るため、法解釈で処罰することにも合理性があることは否定できない。

あとは処罰の手続の問題であろう。

危害が存在するからといって、法律に基づくことなく処罰してよいわけではない。処罰をするには法律が必要である。国民をアートメイクや入れ墨の危害から守る特別の制度や法律が長年にわたり存在していなかったことは確かである。我が国ではこれらを医師法17条の適用により「医行為」として、一般的・網羅的に処罰する解釈・運用をしてきた。それもひとつの法解釈であり法技術であろう。しかし、これを長年続ければ、法律の文言と実態が乖離していく。その典型が「入れ墨は医行為」という認定であろう。日本が未来にわたり真の法治国家といえるためには、このような法の解釈を続けていくのは危ういように思われる。なぜなら、各方面でこのようなことが続けば、法の文言と実態が乖離し、法は一部のギルド(法律家)のものになり下がってしまうからである。一般国民からの信頼を失えば、法は成り立たない。

最高裁判所の判断はこれからである。


[脚注]

    • 注1)医師法17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない。」として、同31条1号は違反した者に三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する、としている。
      注3)厚生労働省ホームページ、厚生労働省医政局医事課長通知「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」平成13年11月8日医政医発第105号