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36協定、しっかり締結・届出できていますか?
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
長時間労働を防止するうえで、中心的な役割を担うのが「時間外・休日労働に関する協定」です。労働基準法の36条に定められていることから、通称「36協定」と呼ばれています。
労使で話し合って、毎年、時間外労働、休日労働をどの程度までさせてよいかを決めるものですが、正しく出来ているでしょうか? 「働き方改革」などの法改正もあり、36協定はここ数年、毎年のように様式が変わっています。改めて基本から注意点までをまとめてみました。
1労使協定による時間外・休日労働
もともと労働基準法では、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて働かせてはならない、法定休日(原則週1日)を与えなければならないと定められています。
しかし、業務の都合などから法定労働時間を超えて、または法定休日に労働させる必要が出てきます。そこで使用者は、労働者代表と36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、残業等を適法に行わせることができるようになります。
なお、協定の内容については、職場に掲示、備え付け、書面の交付などにより労働者に周知する必要があります。
また、労働者に対し残業等を命じることができる根拠として、就業規則等に時間外・休日労働を命じる旨を定めることも必要になります。
2過半数代表者の正しい選出は
労使協定は、使用者(会社の社長や、工場長、営業所長など)と労働者代表で締結します。労働者代表は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があれば、その組合の代表者です。労働組合がない、あっても過半数に満たない場合は、労働者の過半数を代表する者を選出します。
昨年4月以降に届出する36協定から様式が代わり、労働者代表の選出方法について確認するチェックボックスが2つ増えています。これは、「労働者代表が過半数を代表する者であること」と、「管理監督者や使用者の意向により選出された者でないこと」を確認するものです。正しい代表者を選出するには、次の点を注意してください。
- ①管理監督者でないこと
部長、工場長など経営者と一体的な立場にある人を「管理監督者」といいます。労働者の代表を選出する時は、管理監督者以外の人から選びます。 - ②民主的な手続き
協定締結の代表者を選出することを明らかにして投票、挙手などにより選出します。このとき、パートタイマー、アルバイトなどを含む労働者の過半数が支持していることが必要です。ただし、使用者が指名するなど、その意向を受けて選出された場合は無効です。
3押印はいらなくなった?
昨年から厚生労働省の36協定届の様式から「印」の記載がなくなりました。これは、新型コロナウイルスへの配慮から政府の進める押印廃止の政策を反映するものです。
ただし、ここも注意してください。なくなったのは「協定届」の押印です。基本的な労使協定の届出方法は、労使で締結した「協定書」を添付し、監督署へ「協定届」として提出します(図の方法①)。しかし36協定の場合、わざわざ「協定書」を別途作成しなくとも、「協定届」を「協定書」と兼ねることが許されているため、多くの会社は「協定届」だけを作成し届け出ています(図の方法②)。この場合、労使が合意したことの確認として、やはり署名や記名・押印を省略することはできません。
4時間外労働の上限は高めに設定すべき?
36協定で最も重要なのが時間外労働・休日労働の上限を定める作業です。まずは法律の内容から確認しましょう。
- ①原則的な上限
36協定に定めることができる時間外労働の上限には、次のとおり法律で限度が定められていて、この範囲で協定しなければなりません。なお、1日の時間外労働と休日労働には法定の限度はありません。
法律では協定の限度時間を定めていますが、「月10時間まで」と限度時間よりも低く協定した場合は協定の時間が優先され、10時間を超えて働かせたときは法違反になります。1ヵ月:45時間以内
1年:360時間以内 - ②特別条項による上限
臨時・特別な事業がある場合、年6回を限度として、原則的な上限を超えて時間外・休日労働をさせることができます。この場合、「特別条項」として、「臨時特別な場合の具体的な内容」「延長できる時間外・休日労働の時間数」「回数」「健康福祉確保措置」を協定に盛り込む必要があります。
年6回、つまり年6ヵ月までなら特別条項の上限まで働かせることができますが、これを毎月の上限と誤解している人も多いので注意してください。
なお、この場合も次のとおり上限が定められています(1ヵ月の時間数には休日労働の時間も含まれます)。「未満」「以内」の違いに注意してください。1ヵ月:100時間未満
1年:720時間以内 - ③実労働時間の上限
さらに、労使協定で定めることができる時間の他に、次のとおり実際の時間外労働にも上限があります(休日労働の時間も含まれます)。1ヵ月:100時間未満
2~6ヵ月の平均:80時間以内
36協定で定める上限時間について、「仕事が日程どおり処理できるか分からない」「受注をこなしきれなければ大変だ」といった理由から、できるだけ高めにしておこうと考えるかもしれません。しかし、労働者はその上限時間まで働いてもよいと受け止めるため、高めに設定する会社は、やはり全体的に長時間労働になりやすいといえます。
上限時間は低く設定して、それ以上働けなくするか、高めに設定しても、長時間働いている人はいないか、実際の労働時間を厳しく管理するようにしましょう。
5過重労働による労災リスクや割増賃金コスト増
前述の「③実労働時間の上限」は、実は「過労死ライン」という労災認定の基準になるほどの長時間労働です。この時間程度まで働かせると、場合によっては労働者が「うつ病」になり、過重労働が原因だとして労災請求、民事損害賠償請求を求めてくるかもしれません。月80時間程度の時間外労働がある場合、会社が負ける可能性も高くなってきます。
また、中小企業は現在猶予されていますが、令和5年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金が「25%以上」⇒「50%以上」になります(大企業はすでに実施されています)。人材確保や業務の効率化は容易ではありませんが、早めに長時間労働はなくしていく必要があります。
6猶予事業(業務)があります
次のとおり、上限規制が適用されない事業や業務があります。
- ①新技術・新商品等の研究開発業務
- ②建設業
- ③自動車運転業務
- ④医師
- ⑤鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業
②~⑤は令和6年3月末までの猶予措置です。また、⑤については実労働が単月100時間未満・2~6ヵ月の平均80時間以内の規制のみ適用されません。
例えば「建設業」のように事業として適用されない場合、事務職など直接建設の業務に従事しない人も含めて適用されません。
これら猶予事業等については、36協定の様式が一見これまでと変わっていないように見えますが、冒頭で説明したチェックボックスが追加され新しくなっています。古い様式を使わないよう注意してください。