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1.従業員のミスによる損失、弁償させてもいい?
2.新しい履歴書で削除された項目は聞いてはいけない?

(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所


従業員のミスによる損失、弁償させてもいい?

倉庫から商品を運ぶ際に、従業員が商品を落として壊してしまいました。
数万円の損失になるため給与から毎月数千円ずつ引いて弁償してもらおうと考えています。何か問題がありますか?

ミスによる損失を全額、従業員に負担させることはできないでしょう。一部であれば弁償してもらうことも可能と考えますが、その場合でも給与から一方的に天引きすることは許されません。

従業員のミスにより損失が出た場合、弁償してもらいたいと考えることはあるでしょう。

例えば次のようなケースです。

  • 商品を壊した、紛失した
  • 操作を誤り機械や備品を壊した
  • レジで釣銭を間違えた
  • 請求金額を間違えた
  • 発注を間違えた
  • 社用車で事故を起こした  など

① 一部しか認められない

しかし、通常起こりうるミスによって生じた損害については、労働者が全額を賠償すべきと認められることはまずありません。

なぜなら使用者は、労働者が働くことによって利益を得ているため、そこから生じるリスクも負担すべきと考えられているからです。

労働者のミスで発生した損害は、さまざまな事業を考慮して、使用者と労働者との間で公平に負担しようというのが裁判所の基本的な考え方です。そのため、使用者の損害賠償請求はかなり制限されています。

損害賠償を請求できないわけではありませんが、裁判などの争いになった場合、一部しか認められないと考えておくべきでしょう。

② 一部とはどれくらい?

「一部」とはどれくらいかはケースバイケースですが、参考までに一例をご紹介しましょう。

<裁判例>
欠勤した運転手の代行としてタンクローリーを運転していた従業員が、急停車した先行の車両に追突。
生じた損害40万円(相手・自社車両の修理代、休業補償など)を賠償するよう求めて提訴した。

このケースでは、(1) 会社が対物保険・車両保険に加入していなかった、(2) 普段は小型貨物自動車の運転手であり、事故当時は欠勤者の代行として臨時的にタンクローリーを運転していた、(3) 勤務成績は普通以上であった、などの事情を考慮。勤務先は従業員に対して損害額の25%のみ請求できると判断されています。

ご質問のケースであれば、商品を運びやすいように倉庫に設備を整えていたか、安全に運ぶ方法を教えたか、保険に加入していたか、長時間労働による睡眠不足で集中力が低下していなかったか・・・などさまざまな事情を考慮して判断されるでしょう。

③ 満額が認められるケースは

まれに満額の損害賠償請求が認められたものもありますが、それは従業員が故意に会社に損害を与えた場合、具体的には会社のお金を横領した場合などよほど悪質なケースに限られています。

④ 給与からの天引きは違法

ご質問には「給与から毎月数千円ずつ引いて」とありましたが、たとえ労働者が損害賠償責任を負う場合であっても、会社が一方的に賠償金を給与から天引きすることは認められません。労働基準法に定められた「全額払いの原則」に違反します。

⑤ 賠償予定も違法

「商品に傷をつけたら1回1万円」など、実際の損害額にかかわらずあらかじめ罰金を決めておくことも認められません。労働基準法の「賠償予定の禁止」に違反するからです。

「全額払いの原則」に違反した場合は30万円以下の罰金、「賠償予定の禁止」に違反した場合は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

⑥ 減給処分は?

なお、就業規則に定めた懲戒処分のルールに沿って減給の制裁をおこなうことは可能です。

ただし、(1) 1回の減給額が平均賃金1日分の50%、(2) 1ヵ月の減給総額が月給の10%以内 が限度となっています。また、1つの行為について減給できるのは1回までです。

新しい履歴書で削除された項目は聞いてはいけない?

新しい履歴書では「通勤時間」や「扶養家族数」などいくつかの項目が削除されていますが、削除された項目については、面接で本人にたずねてはいけないのでしょうか?

厚生労働省が2021年4月に公開した履歴書の新様式では、「プライバシーの要素が非常に高い情報」であるとして以下の欄が削除されています。

  • 性別(「男・女」選択式 → 任意記載欄へ)
  • 通勤時間
  • 扶養家族数
  • 配偶者の有無
  • 配偶者の扶養義務の有無

これらの項目は採用選考の段階では必要なく、むしろ就職差別につながる恐れがあると言えます。

しかし、これらの情報の記載がない履歴書を提出された場合、その項目について絶対にたずねてはいけないというわけではありません。把握が必要な場合は、理由を説明して面接などで確認することが可能です。

① 必要性を説明した上でたずねる

たとえば「性別」については、一部の坑内労働など法律上、女性を就業させることができない場合もあります。しかし、理由もなく興味本位でたずねたり、強制的にカミングアウトさせるような質問は避けるべきでしょう。

「通勤時間」であれば、「緊急時に急いで出社してもらうことがあるかもしれない」と職務上の必要性を説明した上でたずねるのであれば、採用選考の段階でも問題ないでしょう。

② 本当に知りたいことは何?

厚生労働省は「家族」や「家庭環境」など14事項を「就職差別につながるおそれがあるもの」と定め、採用選考でたずねるのは不適切だとしています。

選考段階で扶養家族数や配偶者の有無を知りたい理由は何でしょうか?

もし、残業や転勤、在宅勤務などが可能かどうか知るために家族のことを聞きたいのであれば、家族について聞くのではなく、「月○時間程度の残業が可能か」「転勤が可能か」「在宅勤務が可能か」を直接聞くべきでしょう。

なお、家族手当や通勤手当の金額まで含めて労働条件を提示するために、面接で必要事項を確認することはやむを得ないと考えられますが、その場合も応募者に必要性を説明しましょう。

③ 配慮が必要なことはないか

応募者全員に、働いてもらう上で何か配慮が必要なことがないかをたずねることは可能です。それをきっかけに、トランスジェンダー()であることや幼い子供がいること、介護が必要な家族がいることなどを自分から話してくれることもあるでしょう。

)出生時とは異なる性を自認する人。

(公開日 : 2023年04月17日)
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