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1.パワハラに関する是正指導が急増
2.106万の壁、130万の壁とは?
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
1パワハラに関する是正指導が急増
厚生労働省は6月30日、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)等の施行状況を公表しました。
① 相談件数は2倍、是正指導は4倍
令和4年度に労働者や事業者から寄せられたパワハラ関連の相談件数は5万840件で、前年度から倍増しました。
パワハラ防止法にもとづく是正指導の件数は前年度の4.3倍に増加しており、そのうち65%が「パワハラ防止措置」に関する指導となっています。
パワハラ防止措置とは、パワハラに関する相談窓口を設けることなど下表のような措置です。
パワハラ防止措置の具体例 | |
概要 | 内容 |
① 方針等の明確化と周知・啓発 | ・おこなってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発 ・行為者への厳正な対処の方針・内容の規定化と周知・啓発 |
② 相談体制の整備 | ・相談窓口の設置と周知 ・相談窓口の担当者が適切に対応できるようにしておく |
③ 事後の迅速かつ適切な対応 | ・事実関係の迅速かつ正確な確認 ・被害者に対する適正な配慮の措置 ・行為者に対する適正な措置 ・再発防止措置 |
④ ①~③までとあわせて講ずべき措置 | ・相談者・行為者等のプライバシー保護のための措置と実施と周知 ・相談・協力等を理由とした不利益な取り扱いの禁止と周知・啓発 |
② 中小企業にもパワハラ防止措置が義務化されたことが要因
このように相談件数や是正指導件数が急増したのは、これまで大企業にのみ義務付けられていたパワハラ防止措置が、令和4年4月より中小企業にも義務化されたことが要因と考えられます。
2106万の壁、130万の壁とは?
「106万の壁」「130万の壁」などの言葉を聞きますが、パート収入はその額以内に収めた方が良いということですか? 超えたらどうなるのでしょうか。
所得税と社会保険の制度上、103万・106万・130万・150万・201万の壁があります
超えても実質的に影響がないものもありますが、手取り収入が大きく減ったり世帯収入が減る場合もあります。
年収の壁は夫に扶養されている妻がパートタイマーなどとして働くときに出てくる話です。妻に扶養される夫の場合も同様ですが、以下、話を簡素にするために夫が妻を扶養しているものとして説明します。
① 所得税では
・103万の壁
所得税では配偶者控除・配偶者特別控除という制度があります。妻の所得が一定以下であれば夫が控除を受けられる、つまり夫の収める税金が少なくなるというものです。
配偶者控除が受けられるのは妻の年収が103万円までですが、103万円を超えたとしても配偶者特別控除があります。こちらは妻の年収が150万円まで満額控除が受けられます(※1)。どちらも控除額は同じです。
(※1)夫の年収が900万円以下の場合
・150万の壁・201万の壁
配偶者特別控除は、妻の年収が150万円を超えると控除額が段階的に減額され、約201万円を超えると控除が受けられなくなります。
段階的に減額されるので壁を少し超えたからといって大きな影響が出るものではありませんが、会社(夫の勤務先)によっては配偶者手当や家族手当の支給要件として妻の年収を「103万円まで」「150万円まで」などと設定していることがあります。その場合は少し超えただけでも世帯として大きな影響が出る場合もあります。
なお、夫婦ではなく親子などの場合は、年収が103万円を超えると扶養控除がなくなります。こちらは段階的な減額ではないので注意が必要です。
② 社会保険では
夫がサラリーマンの場合、妻を健康保険の被扶養者にすることができます。その場合、妻の分として健康保険料を支払う必要はありませんし、妻は第3号被保険者となるため国民年金の保険料も発生しません。
・106万の壁
パートタイマーへの社会保険の適用拡大がおこなわれており、現在、従業員数101人以上(※2)の事業所に妻が勤務している場合は、パートタイマーでも社会保険に加入することになります。ただし、「週の所定労働時間が20時間以上」「賃金が月額8.8万円以上」などの要件を満たす場合に限られます。
月8.8万円は年収にすると106万円のため「106万の壁」と言われます。
妻本人が社会保険に加入するということは、夫の扶養から外れ、妻にも健康保険料・厚生年金保険料の負担が発生するということです。
(※2)来年10月以降は51人以上
・130万の壁
妻の勤務先の規模などに関わらず、年収が130万円(※3)を超えると、全ての人が夫の扶養から外れ、自分で社会保険に加入することになります。
(※3)60歳以上の場合などは180万円
保険料は年収130万円程度の人で年間20万円前後になるので影響は大きいと言えるでしょう。しかし、傷病手当金や出産手当金が受けられたり、将来もらえる年金額が増えるなどメリットもあります。