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1.《小学校就学前までの措置を義務化、介護にも個別の意向確認》改正育児介護休業法のポイントまとめ
2.育児休業給付が実質10割に、時短勤務にも給付金
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
1《小学校就学前までの措置を義務化、介護にも個別の意向確認》改正育児介護休業法のポイントまとめ
育児介護休業法が改正され、5月31日に公布されました。この法律はたびたび改正されていますが、今回も改正ポイントがたくさんあり、社内規定の改定のほか、実務面でも対応が必要となります。主な改正ポイントをまとめてご紹介します。
ほとんどが育児関連の改正ですが、今回は介護離職防止のための措置も盛り込まれています。
主な改正ポイント(施行日順) | |
2025年(令和7年)4月1日より | 残業免除を小学校就学前まで拡大 |
育児のためのテレワークを努力義務に | |
子の看護休暇の拡充 | |
介護離職防止のための措置 | |
介護休暇の対象者を拡充 | |
2025年(令和7年)10月1日より(※) | 3歳から小学校就学前までの措置2つ以上を義務化 |
3歳から小学校就学前までの措置について個別周知・意向確認 | |
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が義務化 | |
※予定(2024年7月12日現在) |
①2025年10月1日より(予定)3歳から小学校就学前までの措置2つ以上を義務化
現行法では、3歳から小学校就学前までの期間に努力義務として、フレックスタイム制や所定外労働の免除などいくつかの選択肢から実施可能な措置を講じるよう企業に求めています。改正後は、この措置が努力義務ではなく「義務」化されます。
選択肢は次の5つです。この中から2つ以上の措置を講じなければなりません。
- 始業時刻の変更等
- テレワーク等(10日/月)
- 保育施設の設置運営等
- 新たな休暇の付与(10日/年)
- 短時間勤務制度
テレワーク等と新たな休暇は原則時間単位で取得可能としなければなりません。
労働者は、会社が講じた措置の中から1つを選択して利用できます。
なお、会社が措置を選択する際は、過半数労働組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があります
②2025年10月1日より(予定)3歳から小学校就学前までの措置について個別周知・意向確認
①で事業主が講じた措置について、労働者に個別周知・意向確認することが義務付けられます。具体的な方法など詳細は今後省令で示されますが、面談や書面交付となる予定です。
③2025年4月1日より残業免除を小学校就学前まで拡大
現行法では3歳未満の子がいる場合に労働者が請求すれば、残業を免除(所定外労働の制限)することが義務付けられています。
改正後はこれが3歳未満→小学校就学前まで拡大されます。
④2025年4月1日より育児のためのテレワークを努力義務に
3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主の「努力義務」となります。
また現行法では、子が3歳になるまで利用できる単時短勤務制度を設けることを会社に義務付けていて、短時間勤務制度は、所定動労時間を「1日6時間」とする措置を必ず設けなければならないとされています。
この短時間勤務制度について、改正後は、「1日6時間」を必須とした上で、他の勤務時間も併せて設定することを指針により促すとしています。
このほか、短時間勤務制度を講ずることが困難な場合の代替措置にテレワークが追加されます。
⑤2025年4月1日より子の看護休暇の拡充
現行法では、「子の看護休暇制度」の対象は小学校就学前までの子とされています。取得事由はこの負傷・疾病、予防接種、健康診断です。
改正後は小学校3年生まで延長され、取得事由も学級閉鎖や入園式などまで拡大されます。
また、現行法では労使協定で次の労働者を「子の看護休暇」の対象から除外できることになっています。
- 勤続6カ月未満
- 所定労働日数が週2日以下
改正後はこのうち(1)を撤廃し、労使協定で除外できるのは(2)のみとなります。
⑥2025年10月1日より仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が義務化
妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に義務付けられます。
たとえば勤務時間帯や勤務地、業務量の調整、両立支援制度の利用などについて意向を聴き、配慮することが求められます。中でも、子に障害がある場合やひとり親家庭の場合において望ましい対応などについては、今後指針で示される予定です。
⑦2025年4月1日より介護離職防止のための措置
2022年の改正では、子供が生まれる労働者に対して育児休業制度などの個別周知と制度利用の意向確認をすることが企業に義務付けられました。
今回の改正では家族の介護をおこなう労働者に対しても同様の措置義務が設けられます。
具体的には次のようなものです。
- 介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
- 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供
- 研修や相談窓口の設置など
⑧2025年4月1日より介護休暇の対象者を拡充
介護休暇について、勤続6カ月未満の労働者を労使協定にもとづき除外する仕組みが廃止されます。
* * * * *
その他、男性の育児休業取得率の公表義務の対象となる企業の規模を1000人超→300人超に拡大するといった改正点もあります。
また、今回同時に次世代育成支援対策推進法も改正されており、一般事業主行動計画の策定時に数値目標の設定などが義務付けられます。
2育児休業給付が実質10割に、時短勤務にも給付金
法律が改正されて、育児休業給付金が実質10割になると聞きました。どういうことですか?
育児休業期間全体を通して実質10割になるのではなく、要件を満たした場合に最大28日間、実質10割の給付となります。
給付率は80%ですが、社会保険料が免除されるので実質的な手取り額で見ると10割相当になるということです。
このほか、育児中の時短勤務にも給付金が支給されることになりました。
ともに、2025年4月1日から施行されます。
① 出生後休業支援給付の創設
育児休業給付が実質10割になると報道されているのは、この「出生後休業支援給付」のことです。
現行制度では、育児休業を取得した場合、休業開始から通算180日までは賃金の67%、180日経過後は50%の育児休業給付が支給されることになっています。
給付金は67%ですが、育児休業期間は社会保険料が免除されるため、実質的な手取り額で見ると休業前の賃金の8割相当の額を受けられることになります。
改正後は、要件を満たした場合に一定期間だけ給付率が引き上げられます。具体的には次のとおりです。
- 男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に
- 父母ともに14日以上の育児休業を取得する場合に
- 最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付
これにより、育児休業給付とあわせて67%+13%=給付率80%(手取り額で10割相当)へ引き上げられるというものです。
男性の育児休業取得は増えてきたものの、数日程度など非常に短期間の休業を取得している人が多いのが実情です。父母ともに「14日以上」取得という要件を設けることで男性の育児休業をさらに促進するのが狙いです。
なお、配偶者が専業主婦(夫)の場合や、ひとり親家庭の場合などには、父母ともに育児休業取得の要件を求めずに給付率が引き上げられます。
② 育児時短就業給付の創設
現行法では、育児のための短時間勤務制度を選択し、賃金が低下した労働者に対して給付をおこなう制度はありません。
改正後は、2歳未満の子を養育するために短時間勤務をしている場合の新たな給付として、「育児時短就業給付」が創設されます。
給付率は時短勤務中に支払われた賃金の10%となっています。
ただし時短勤務中の賃金が、それまでの賃金の90%以上の場合は、給付率が調整される仕組みとなっており、給付とあわせてそれまでの賃金を超えることはありません。