人事労務 F/U NO.66
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1.《従業員の介護に備える》仕事と家族介護を両立させる支援とは
2.育児休業給付の延長手続きが厳しくなる?
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
1《従業員の介護に備える》仕事と家族介護を両立させる支援とは
誰もが、歳をとった親を将来どう介護していけばよいだろうかと考えたことがあるでしょう。そして、従業員の中にはすでに介護をおこなっている人がいるかもしれません。
高齢化が進む日本では、介護はますます身近な問題となっています。しかし、従業員が仕事をしながら家族介護ができる社内体制の構築については、準備ができていないという会社が多いのではないでしょうか。
①家族介護の問題は
介護は、高齢や病気などから自分で身の回りのことができなくなった家族のため、食事、清掃、洗濯、入浴、排泄などの世話をするものです。その負担は、家族の状況や介護の必要な程度などにもよりますが、大変な苦労といえるでしょう。
精神的にも、金銭的にも負担となりますが、このようなことが長期化するかもしれず、また、いつ状況が変わるか分からないため、仕事の両立が難しい面があります。さらに、核家族化、高齢化により介護を受ける側もする側も高齢者となる、いわゆる「老老介護」になりがちだと言われています。
②介護離職させないために
従業員が家族の介護が必要になるとすると、主に40代から50代くらいでしょうか、社内でも中核的な人物である可能性があります。
このような欠かせない人物であっても、家族の介護が必要になった多くの人が離職を考えてしまいます。「会社に迷惑はかけられない」「仕事をしながら介護は無理」「もっと自宅に近い会社に転職しよう」といったことが多いようです。
従業員が安心して働き続けられるよう、対応方法をあらかじめ準備しておきましょう。
③介護に直面したとき
いざ、従業員から家族介護の相談があったとき、どのような説明をするべきでしょうか? 厚生労働省は下表のような「介護をしながら働き続けるためのポイント」を案内しています。このような情報を提供するなどして今後の働き方を一緒に考えましょう。
ポイント1は、従業員に介護の準備時間などを与えるものです。この点は後で説明します。ポイント2は、行政の提供するサービスです。できるだけ介護の負担を軽くすることが働き続けるために重要です。
介護をしながら働き続けるためのポイント
- 職場に「家族等の介護をおこなっていること」を伝え、必要に応じて勤務先の「仕事と介護の両立支援制度」を利用する
- 介護保険サービスを利用し、自分で「介護をしすぎない」
- 介護保険の申請は早めにおこない、要介護認定前から調整を開始する
- ケアマネージャーを信頼し、「何でも相談する」
- 日頃から「家族や要介護者宅の近所の方々等と良好な関係」を築く
- 介護を深刻に捉えすぎずに、「自分の時間を確保」する
④介護サービスを利用する
前述のポイント2の介護サービスを利用するには、まず、居住地の地域包括支援センターや市区町村の窓口で申請をおこないます。この地域包括支援センターでは、介護サービスや日常生活の相談をすることもできます。
介護には、その必要な状態によって要支援、要介護といった段階があり、介護支援専門員(ケアマネジャー)がケアプランを作成して介護サービスがおこなわれます。
介護する当事者としては、この申請手続きが最初の負担になるでしょう。支援センターなどでよく教えてもらうとよいでしょう。
⑤仕事と介護の両立支援制度
会社は、従業員から家族介護の事情を聴いたとき、育児介護休業法の定める制度などの利用を促して、仕事と介護の両立を支援していくことになります。
厚生労働省では、「仕事と介護の両立支援ガイド」などにより、具体的な取組方法を詳しく説明しています。社内の体制を構築するうえで、参考にしてみましょう。
概要としては、(1)従業員の介護の実態把握、(2)制度設計・見直し、(3)介護に直面する前の支援、(4)介護に直面した後の支援、(5)働き方改革、これらのステップを繰り返していくよう促しています(図参照)
「(2)制度設計・見直し」について、以下、介護に関する法定の制度を見ていきましょう。介護のその時の事情から、一定期間の休業、1日・半日などの休暇、あるいは短時間勤務をする、時差出勤するなど、働き方を選べるようにしましょう。なお、それぞれ一定の要件に該当する者は対象から除外することができます。
◆介護休業
労働者が要介護状態(※)にある対象家族を介護するための休業です。
対象家族1人につき3回まで、通算93日まで利用でき、この期間については、雇用保険から介護休業給付金も支給されます。
(※)負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間、常時介護を必要とする状態
◆介護休暇
家族の介護や世話をする労働者は、会社に申し出ることにより、1年度において5日(介護対象家族が2人以上の場合は10日)を限度として、介護休暇を取得することができます。1日単位または時間単位で取得することができますが、有給とすることまでは求められていません。
◆所定外労働の制限(残業免除)
家族を介護する労働者が請求した場合、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはいけないというものです。
◆時間外労働の制限
家族を介護する労働者が請求した場合、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1ヵ月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはいけないというものです。
◆深夜業の制限
家族を介護する労働者が請求した場合、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、深夜に労働させてはならないというものです。
◆所定労働時間の短縮等の措置
仕事と介護の両立をしやすくするため、会社は次のいずれかの措置を講じなければなりません。これらは、連続する3年間以上の期間において、2回以上利用できるようにしなければありません( 4)を除く)。
- 短時間勤務の制度
- 1日の所定労働時間を短縮する制度
- 週または月の所定労働時間を短縮する制度
- 週または月の所定労働日数を短縮する制度
- 労働者が勤務しない日・時間を請求することを認める制度
- フレックスタイム制度
- 時差出勤制度
- 介護サービスの費用助成制度
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2025年(来年)4月より、育児介護休業法が改正され、介護離職防止のために個別の意向確認が義務化されます。また、労使協定により介護休暇の対象から除外できる者について「勤続6ヵ月未満」がなくなります。
2育児休業給付の延長手続きが厳しくなる?
育児休業給付金の延長の手続きが厳しくなると聞きました。具体的にはどのように変わるのでしょうか。
「落選ねらい」の申込をしていないか確認するために添付書類が増えます。入所不承諾通知に加え、本人が記載する申告書と、保育所の利用申込書の写しが必要となります。
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育児休業給付金の支給延長のために保育所の入所選考にあえて落ちる「落選狙い」を防ぐため、2025年4月以降、育児休業給付金の延長手続きが厳格化されることになりました。
① 保育所に入所できない証明が必要
育児休業は原則として子が1歳に達するまでですが、保育所に入所を希望しているのに入所できない場合などは1歳6ヵ月または2歳まで延長できることになっています。
育児休業給付金を延長して受ける際は、保育所に入所できないことを証明するために、市区町村が発行する「入所保留通知書」や「入所不承諾通知書」などをハローワークに提出することになっています。
② 「落選ねらい」が問題に
しかし、そもそも1歳で復帰するつもりがなく、入所不承諾通知書などを得るために入所選考にあえて落ちる「落選ねらい」が問題となっています。
たとえば、あえて自宅から遠いところにある人気の保育園に応募するなどといった行為です。
③ 追加書類が必要
こうした行為を防ぐために、2025年4月以降は育児休業給付金の延長手続きにおいて次の確認書類が追加されることとなりました。
- (A) 延長事由認定申告書
- (B) 保育所の利用申込書の写し
(A)は本人が記載するもので、合理的な理由なく遠い保育所に申し込んでいないか確認する内容となっています(下図参照)。
(B)では、申込にあたって入所保留となることを希望する旨の意思表示をしていないか確認がおこなわれます。
これらの書類によって審査した上で、「速やかな職場復帰のために保育所の利用を希望している」と認められない場合は、給付金が延長されません。
④ 従業員に説明を
育児休業を取得している従業員には、延長する場合の手続きが厳格化されること、落選狙いで通うつもりのない保育園に申し込んだと判断されたた場合は給付金が延長されれないことを説明しておきましょう。