人事労務Ⅰ F/U NO.16

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刑事裁判の公開とアミカス・ブリーフ

(執筆者)日本医師会総合政策研究機構 弁護士 水谷渉


1.アミカス・ブリーフとは?

アミカス・キュリエ(amicus curiae、ラテン語)とは、日本語で「裁判所の友」と訳され、個別事件の法律問題について、裁判所に情報または意見を提出する第三者のことをいう。そして、このアミカス・キュリエが裁判所に提出する意見書をアミカス・ブリーフという。

米国では、アミカス・ブリーフに関して、連邦控訴手続規則Rule37、連邦巡回控訴裁判所規則のRule29等に各根拠規定がある。アミカス・キュリエとなり得る者は、弁護士、学者、個人、企業、業界団体、行政機関など、特段の制限はない。

アミカス・ブリーフは、わが国では法制化されていないが、特許法の分野では、知財高裁の訴訟指揮による形で、当事者の代理人を通じた意見募集が行われているようである。たとえば、平成26年5月に判決が言い渡されたアップルとサムソンのスマートフォンやタブレットの特許を巡る知財高裁の審理では、当事者以外の第三者から意見書の提出を求める手続きが実施され、58通の意見書が提出されている。


2.裁判官の限界とアミカス・ブリーフの必要性

日本の裁判官は、本人の意思で退官しない限り、生涯にわたって裁判官であり続け、在官中は、2~3年おきに全国異動をする。裁判官は生涯において、民事事件、刑事事件の両方を経験するが、民事事件のキャリアが長い民事裁判官、刑事事件のキャリアが長い刑事裁判官に分かれる。その中で専門分野に特化した刑事裁判官は育ちにくい。

特に民事事件では、世に生起するあらゆる事象が裁判の対象となり、特許などの技術的・専門的な事項についても裁判の対象になるし、複雑多岐な租税の問題、医療行為も裁判の対象になる。刑事事件も、民事事件ほど多くはないが、高度に専門的知識と経験が争点となる事件が存在する。しかし、裁判官も生身の人間で、専門分野ごとに多岐に細分化した世の中で、すべての分野や業界に精通することはできない。

そこで、従来から、訴訟の当事者が依頼する私的鑑定や裁判所が選任する鑑定人により、その不足した知識を補ってきた。

しかし、近時、専門分野が高度に細分化しており、数人の鑑定人だけでは補いきれない問題もある。つまり、事件は一つの分野にのみとどまるものではない。たとえば、手術における医療事故でも、手術手技に関する外科医の分野、病理学的な分野、麻酔科的な分野も必要である。鑑定人もまた生身の人間であり、ある分野に精通していたとしても、他の分野をフォローできない。専門分野は、高度に細分化し、事件は学際の壁を超えてひろくまたがる。数人の鑑定人の判断にも、おのずと限界がある。とりわけ、刑事裁判の場合、死刑や懲役刑が科されるため、誤判は国家の制度として絶対にあってはならないことである。

そこで、裁判においても、広く在野の意見を取り入れたうえで判断する方が適切であろう。そこで、裁判に利害があり関心を寄せる信頼ある団体が、個別の刑事裁判に、アミカス・ブリーフを寄せることは冤罪防止のためにも重要なことであると考える。


3.アミカス・ブリーフと裁判の公開

アミカス・ブリーフを裁判所に提出しようとしても、まず、事件当事者以外の第三者は、終結前の事件に関し、訴訟記録を閲覧する制度がない。また、検察官が弁護人に開示した証拠に関しては、目的外利用が禁止されていることから、弁護人が弁護活動の一環として開示しなければ、目的外利用になってしまう。日本における刑事裁判の公開は形式的なもので、あえて言えば「公開法廷に立ち入る自由」に限られている。

法律の実務家からすれば、法廷でのやり取りの場面は、刑事手続の中の一部に過ぎない。しかも、その一部である法廷の様子を録音・録画することは許されず、手書きでメモするしかできない。これでは、第三者が刑事裁判の全貌を理解することができない。

そのため、法廷で証言する専門家の証言は、批判にさらされる機会が少なく、エビデンスの乏しい意見を述べる専門家も少なからず存在する。結果として、判決に重大なに誤りが生じてしまう。

まず大事なのは、「裁判の公開」を実質的なものにすることである。多くの国で法廷は中継されているし、わが国でも行政官庁の専門家委員会の議事録や資料はウェブで公開されている。裁判の実況中継も、比較的低コストで実現可能であろう。


4.まとめ

アミカス・ブリーフは高度に複雑化する裁判において、専門的な知見を取り入れる制度として有用である。実務の運用により、刑事裁判においても取り入れることは可能であろう。ただし、その前提として、「裁判の公開」を実質的なものにすることが必要である。裁判の無謬性は、閉じることではなく、開くことによってはじめて実現可能となる。


[参考文献]

    • 飯村敏明「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム最高裁判決とアミカスキュリエ」特許研究No.60(2015)2-4
      日本弁理士会アミカスブリーフ委員会「日本版アミカスブリーフ制度の実現に向けて」パテントVol. 65 No. 3(2012)82-94