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来年1月より順次改正

改正健康保険法、何が変わる?

(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所


改正健康保険法が6月4日に成立、6月11日に公布されました。改正点の中から、傷病手当金の支給期間の通算化など企業の担当者が押さえておくべき点に絞って解説します。


1.傷病手当の支給期間の通算化

(1)傷病手当金とは

傷病手当金は、仕事以外の理由による病気やケガで仕事を休み、給与が受けられないときに健康保険から支給される生活保障です。

支給額は賃金のおおむね3分の2で、休業した日単位で支給されます。


(2)傷病手当金の支給期間

傷病手当金は休業4日目から支給され、同じ傷病につき最長1年6ヵ月で終了となります。

ただし、実際に受給した期間とは関係なく、支給を開始した日から1年6ヵ月たつと終了します。たとえば図のように4ヵ月休み、いったん職場復帰して1年働いた後また症状が悪化して休む場合は、残り2ヵ月分しか受給できないのです。

傷病手当金の支給期間の通算化

メンタルヘルス疾患やがんなどは、長期にわたり療養が必要になることもあります。特にがん治療では、再発により入退院を繰り返すケースも多く、働きながら治療を受けているがん患者などから、支給期間の通算化を求める声があがっていました。

なお、公務員らが加入する共済組合の傷病手当金は、すでに通算化されています。


(3)改正後の支給期間

そこで今回の改正により、傷病手当金の支給期間の通算化が行われることになりました。

先ほどの図の例で言うと、4ヵ月休み、いったん職場復帰して1年働いた後また症状が悪化して休む場合は、残り1年2ヵ月分受給できることになります。

この改正点の施行は令和4年1月1日です。施行日前に受給を開始している人でも、施行日の前日の時点で受給開始から1年6ヵ月を経過していないのであれば、支給期間の通算が適用されます。


2.任意継続被保険者制度の見直し

(1)任意継続被保険者制度とは

任意継続被保険者制度とは、健康保険の被保険者が、退職後も引き続き最長2年間、退職前に加入していた健康保険の被保険者になることを選択できる制度のことです。

転職した場合は次の勤務先で健康保険に加入しますが、そうでない場合、通常は国民健康保険に加入します。国民健康保険に加入せず任意継続を選んだ場合、これまで会社と折半だった保険料が全額自己負担となるため普通は保険料が高額になります。ただし、保険料が高くなりすぎないよう上限が設けられているため、高所得者は任意継続を選んだ方が有利になります。

また、国民健康保険は家族の分の保険料も必要なので、家族が多い場合なども任意継続の方が有利になることがあります。


(2)任意継続のデメリット

一方で、任意継続にはデメリットもあります。まず収入の有無にかかわらず原則2年間保険料が変わりません。また、本人の意思により途中で止めることが認められていません。

任意継続の資格喪失の条件は次のとおりです。

  • 任意継続被保険者となった日から2年を経過したとき
  • 保険料を納付期日までに納付しなかったとき
  • 就職して、健康保険等の被保険者資格を取得したとき
  • 後期高齢者医療の被保険者資格を取得したとき
  • 被保険者が死亡したとき

本人の申出により資格喪失するという方法は用意されていないのです。

そのため、途中で国民健康保険に切り替えたい場合は、あえて任意継続の保険料を納付せず資格喪失するという方法くらいしかありません。

しかしこの方法では、資格喪失から国民健康保険の取得手続きが完了するまでにタイムラグが生じ、保険証が手元にない空白期間ができてしまう可能性があるのです。


(3)申出により資格喪失できるように

そこで改正により、被保険者が申し出て任意継続の資格喪失ができることになりました。これにより、スムーズに国民健康保険に切り替えられるようになります。

この改正点の施行は令和4年1月1日です。


(4)保険料の算定基礎の見直し

先ほど、任意継続では保険料が高くなりすぎないように上限が設けられていると説明しました。

具体的には、以下の①②のうち、「いずれか低い方に保険料を乗じた額」となっています。

  1. ①従前の標準報酬月額
  2. ②その保険者(協会けんぽ、健保組合)の全被保険者の平均の標準報酬月額

たとえば退職時の標準報酬月額が50万円であっても②の平均が30万円であれば30万円で計算した保険料で済むということです。

この点が今回、健康保険組合に限定して改正されます。

組合の規約により、①が②を超える任意継続被保険者について①(高い方)をその者の標準報酬月額とすることができるようになります。つまり任意継続の標準報酬月額の上限がなくなるということです。

今回の改正では協会けんぽは対象外となっており、協会けんぽの任意継続の場合はこれまでどおりいずれか低い方で保険料を計算します。

任意継続被保険者制度の見直し

3.育児休業中の社会保険料免除

現行法では、月末時点で育児休業を取得している場合に当月の社会保険料が免除される仕組みのため、たとえば9/1~9/29など月末を除く月内で短期間の育児休業を取得した場合は社会保険料が免除されませんでした。改正後は2週間以上の育児休業であれば、月内でも免除対象になります。

月末時点で育児休業を取得している場合は、たとえ1日の休業でも免除対象となる点は現行法と変わりません。

ただし、賞与にかかる保険料については、月末に1日だけ育児休業を取得して賞与の保険料免除を受けるといった行為を防ぐために、1ヶ月を超える育児休業のみ免除対象とすることになりました。

育児休業中の社会保険料免除の要件を変更

* * * * *

その他、後期高齢者医療の窓口負担割合の引き上げ、子供に係る国民健康保険料の減額などの改正も行われています。

(公開日 : 2021年10月27日)
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