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1.成人年齢引き上げによる年金制度への影響はある?
2.シフト制なら勤務日数を減らせる?

(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所


成人年齢引き上げによる年金制度への影響はある?

成人年齢が20歳から18歳へ引き下げられましたが、18歳から国民年金に加入して保険料を納めなければならないのでしょうか。

成人年齢は18歳に引き下げられましたが、国民年金への加入と保険料の納付義務が生じるのは、これまでどおり20歳からです。

① 公的年金制度のしくみ

日本の公的年金制度は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金」と、会社員などが加入する「厚生年金」の2階建てになっています。

会社員などは「第2号被保険者」といって、厚生年金に加入すると同時に国民年金にも自動的に加入します。専業主婦など(第2号被保険者に扶養される配偶者)は「第3号被保険者」、その他の人は「第1号被保険者」として国民年金に加入します。第1号被保険者は、たとえば自営業の人や学生、無職の人などが該当します。

年金制度のイメージ

② 加入年齢はこれまでと同じ

民法の改正により、令和4年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられましたが、国民年金への加入と保険料の納付義務が生じるのは、これまでどおり20歳からとなります。成人年齢の引き下げにより、国民年金で定める加入義務者の年齢が自動的に引き下げられるわけではありません。

会社員など厚生年金の加入者(第2号被保険者)は、20歳未満でも会社を通じ保険料を納めているため、これまでと何ら変更はありません。

また、会社の規模によって、順次パート・アルバイトに対する社会保険の適用拡大が進められていますが、要件(注1)に該当すれば年齢に関係なく加入が義務となるため、ここでも成人年齢の引き下げによる影響はありません。

注1)週20時間以上勤務など。学生は対象外。

③ 保険料を納付できないときは

原則として、20歳以上であれば学生や無職でも国民年金に加入しなければなりません。しかし学生や無職の人は国民年金保険料を納めることが困難な場合があります。

そこで、保険料の納付を猶予もしくは免除する制度が設けられています。

学生の場合は、「学生納付特例制度」を利用することで、在学中の保険料の支払いが猶予されます。前年の所得が一定以下(注2)の学生が対象です。

無職の人など経済的に保険料を納めることが困難と認められる人は、保険料の納付が免除または猶予されます。

いずれの場合も市区町村などへの手続きが必要です。収入がないからと言って保険料を納めず、免除や猶予の手続きもせずに放置しておくと「未納期間」となるので注意が必要です。

注2)128万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等。本人の所得のみより判断されます。

③ 未納のまま放置するリスク

「未納期間」のまま放置した場合の最も大きなリスクはケガや病気で障害が残ってしまった場合です。

年金というと老後の年金をイメージしますが、「障害」や「遺族」に対する給付もあります。若い人でも事故などによって障害が残るほどの大ケガをしてしまう可能性はあるでしょう

たとえば障害基礎年金を受けるには、保険料納付要件を満たす必要があります。このとき、免除期間や猶予期間、学生納付特例の対象期間は保険料を納付した期間と同様に扱われますが、単なる「未納期間」が一定以上になると要件をみたさず障害基礎年金を受給できなくなります。

なお、保険料納付要件は、障害のもととなったケガや病気の初診日以前の納付状況を見るので、ケガをしてから納付しても手遅れです。学生納付特例や免除等は2年1ヵ月前までさかのぼって申請できますが、申請が遅れると万一の場合に年金を受けられない恐れがあります。

シフト制なら勤務日数を減らせる?

近年、機械化などによってパートタイマーの余剰がでてきました。労働日数などは特に決めずシフト制で働いてもらっているので、個別に日数を削減していっても構いませんよね?

使用者が一方的に労働日数を削減することは、労働条件の変更となり認められてない場合もあります。
労働契約の締結時点では、労働日や労働時間を確定せず、一定期間ごとに具体的な労働日・労働時間が確定するいわゆる「シフト制」は、トラブルになることもあるので、使用者が一方的に変更するのではなく労使で話し合い合意のうえで決めるようにしてください。

① シフト制のトラブル

パートタイマーや学生アルバイトなどを活用する小売店や飲食店などでは、「シフト制」で労働日などを定めるケースがよく見られます。

「シフト制」は、日々の事情によって柔軟に労働日・労働時間を設定できるという点で使用者にも労働者にもメリットがあるようにも見えますが、使用者の都合により一方的に決められ、労働者にとって労働日が少なすぎたり、多すぎたりすることで、トラブルになることもあるのです。

たとえば、使用者の裁量でシフトの労働日数を一方的に削減したとします。労働者はこの会社の勤務で一定の収入を見込んでいるのですから、見込んでいる収入が得られないのは大きな不利益を被ることになってしまいます。労働基準法が使用者の都合により労働させない日について、休業手当(平均賃金の6割)の支払いを義務付けているのは、労働者の働く権利を守るためなのです。

逆に、シフトを大幅に増やしたとします。正社員であれば残業や休日出勤を命じることもあるでしょうが、パートタイマーなどは子育てなどの理由からこの勤務形態を選んでいるのですから、本人が同意できる範囲を超えて勤務させるべきではないでしょう。

実際、トラブルから裁判になることもあります。介護事業などを営む会社に勤務するパートタイマーが週3日、1日8時間勤務を希望し、当初はそのように勤務していたにもかかわらず、実際の勤務日が1日やゼロの月が出てきてしまい、当初の勤務状況にもとづく賃金を請求した事件があります。裁判官は、「合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の乱用に当たり違法」として、不合理に削減された勤務時間に対応する賃金の支払いを命じています。

② 厚生労働省が留意事項を公表

このようにトラブルが増えていることから厚生労働省は今年1月、「シフト制」の雇用管理の留意事項を公表しています。

まず、労働基準法では、労働契約の締結に際し、使用者が労働者に対して「始業・終業の時刻」や「休日」に関する事項などを書面により明示するよう義務付けています。この場合の書面とは、労働契約書や労働条件通知書になります。

当然、「シフト制」の場合も、労働契約の締結時に所定の事項を明示しなければなりません。

厚生労働省は、「シフト制」の場合の労働条件明示について、単に「シフトによる」だけでは足りず、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、労働契約締結時の一定期間のシフト表を交付するなどが必要としています。

労働条件の明示例
①始業・終業時刻
「原則的な始業・終業時刻 ○時○分から○時○分まで ただしシフトによって ○時○分から○時○分までの範囲で異なる」 + 最初の月のシフト表
②休日
「毎週3日、ただし具体的な休日は毎月初日○日前までに配布するシフト表による。」

労働日、労働時間の設定方法としては、次の例示のように基本的な考え方を取り決めておくことが望ましいとしています。

◆一定の期間において、労働する可能性がある最大の日数、時間数、時間帯を示す
(例 「毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する」など)
◆一定の期間において、目安となる労働日数、労働時間数を示す
(例 「1ヵ月○日程度勤務」、「1週間当たり平均○時間勤務」など)

一度確定したシフトを変更することは、労働条件の変更になるため、労使何れから変更を申し出た場合も、お互いの合意によって変更することが必要です。

(公開日 : 2022年05月20日)
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