人事労務 F/U NO.52
人事労務基礎講座 フォローアップ
≪判例・事例紹介、法改正情報など≫
主に医療機関や介護福祉関係にお勤めの方向けに、役立つ人事・労務関係の情報を定期的に配信しています。
本人の同意が必要に
専門業務型裁量労働制の改正ポイント
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
裁量労働制が改正され、令和6年4月1日以降は新たな手続きが必要となります。専門業務型裁量労働制について個別に本人の同意が必要になるほか、健康・福祉確保措置についても選択肢が追加されています。主な改正点を確認しましょう。
1裁量労働制とは
裁量労働制とは、業務遂行の手段や時間配分等を従業員の裁量にゆだね、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定の時間(みなし時間)だけ労働したものとみなす制度です。
裁量労働制には2つの種類があります。1つは新技術の研究開発や証券アナリストなど専門性の高い19の業種に適用できる「専門業務型」裁量労働制です。もう1つは企画立案や調査・分析などの業務に適用できる「企画業務型」裁量労働制です。
2裁量労働制の問題点
裁量労働制は、うまく運用できれば自由度の高い働き方でモチベーションや効率アップにつながる制度ですが、「長時間働かせても残業代を支払わなくてよい制度」と誤解されることもあり、長時間労働の温床になりやすいことが指摘されています。
3裁量労働制の改正ポイント
そこでこの度、裁量労働制について改正がおこなわれることとなりました。
専門業務型と企画業務型のうち、企画業務型を導入している企業は0.6%(※1)と非常に少ないため、ここでは専門業務型の改正点を中心に紹介します。
主な改正点は図1のとおりです。1つずつ見ていきましょう。
(※1)令和4年就労条件総合調査
① 本人の同意を得る
現行制度では「企画業務型」のみ本人の同意が必要となっていますが、「専門業務型」についても個別に本人の同意が必要になります。
裁量労働制は長時間労働を助長し過労を強いることにつながる場合があり、企業の都合で過大な業務をおこなわせる懸念に対応するためです。
同意を得る際は、使用者が労働者に対し制度の概要などについて説明することが適当だとしています。
なお、同意しなかったとしても不利益な取り扱いをすることは許されません。
また、同意の撤回の手続を定めることも求めています。
すでに専門業務型裁量労働制を適用している労働者についても、令和6年4月1日以降は同意が必要です。以降、労使協定を締結し直すたびに同意を取る必要があります。
② 同意や撤回の記録を保存
同意および撤回の労働者ごとの記録を保存することが必要になります。保存期間は、協定の期間+5年間(当分の間は3年間)です。
③ 健康・福祉確保措置の選択肢を追加
専門業務型裁量労働制を導入する際は、労働者の労働時間の状況にあわせて「健康・福祉を確保するための措置(以下「健康・福祉確保措置」といいます)を労使協定で定めなければなりません。
健康・福祉確保措置の具体的な内容として、現行制度では6つの選択肢が示されています(※2)。そのうちいくつの措置を実施するかということまでは示されていません。
今回の改正では、「勤務間インターバル(※3)の確保」や「深夜労働の回数制限」など選択肢が4つ追加されました。また、「全員を対象とする措置」と「個々の労働者の状況に応じて講ずる措置」の2つグループに分け、それぞれから1つ以上実施することが望ましいとしています(図2参照)。
(※2)専門業務型の確保措置については企画業務型の措置と同等のものとすることが望ましいとされている。
(※3)退勤から翌日の出勤までの間に、一定時間以上の休息時間を確保する制度。
④ 対象業務を追加
専門業務型裁量労働制はどのような仕事にも適用できるわけではなく、専門性が高い業務として法令で定められた19種類の業務にしか適用できません。
今回の改正では、新たに「銀行または証券会社でM&Aの考案・助言をする業務」が追加され合計20種類となりました。
改正点とは関係ありませんが、この対象業務については法令違反となるケースが目立ち、労働基準監督署からも指摘されることが多いため改めて確認しておきたいと思います。
たとえばシステムエンジニア(SE)の業務が専門業務型裁量労働制の対象となっていますが、実際にはプログラマーの業務なのに「SE」という肩書を与えて裁量労働制を適用するといったことは違法です。
実際にSEであっても、プログラミングや営業など対象外の業務もあわせておこなっていることがあるかもしれません。この場合、対象外の業務には裁量労働制を適用できません。
4労使協定に規定すべき事項
令和6年4月1日以降、新たにまたは継続して専門業務型裁量労働制を導入するためには、図3の事項を労使協定に定めておく必要があります。
法改正に対応した新しい協定届も公開されています。今回追加された事項について労使協定に定めたかどうか、チェック欄が設けられています。
専門業務型裁量労働制の労使協定の有効期間がまだ残っている場合でも、令和6年4月1日以降は改正に対応した労使協定が必要です。令和6年3月31日までに協定届を届け出ましょう。
5企画業務型の改正点
企画業務型裁量労働制については次のような改正がおこなわれます。
- 同意の撤回の手続きを定める(同意はすでに義務付けられている)
- 同意・撤回の記録を保存する
- 労使委員会に対象労働者の賃金・評価制度を説明する
- 労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善をおこなう
- 労使委員会は6ヵ月以内ごとに1回開催する
- 定期報告は初回は6ヵ月以内に1回、その後1年以内ごとに1回とする