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高年齢者雇用対策の推進と高年法に沿った労働契約について

(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所


1.厚労省が通達 高年齢者雇用対策の推進について

改正高年齢者雇用安定法が今年4月から施行されています。厚生労働省は3月26日、改正法にもとづく高年齢者雇用対策の推進について、各都道府県労働局長あてに通達を出しました。

通達の中で、企業に対する指導について具体的な対応や見解が示されているので、抜粋して紹介します。


(1)60歳を下回る定年を定めると

60歳を下回る定年を定めることは、法律上認められていません。法に反して60歳を下回る定年を定めた場合、その定年は無効であり、その年齢を根拠に労働者を退職させることはできません。

通達では「この場合、当該定年は60歳と定めたものとみなされるのではなく、定年の定めがないものとみなされると解される」と示しています。つまり、解雇あるいは労働者が自分から退職を申し出ない限り、労働契約は終了しないということです。


(2)65歳までの雇用確保措置を講じていない企業への指導

65歳までは原則として希望者全員の雇用を確保する措置(雇用確保措置)を講じる義務があります。

この雇用確保措置を講じていない場合、「指導を繰り返しおこなったにもかかわらず何ら具体的な取り組みをおこなわない企業には勧告書を発出し、勧告に従わない場合には企業名の公表をおこない、各種法令等にもとづき、ハローワークでの求人の不受理・紹介保留、助成金の不支給等の措置を講じる」としています。


(3)法の趣旨に反する措置は指導対象

法改正により追加された70歳までの努力義務については、雇用に限らず業務委託契約などの方法も認められています。ただし、雇用していたときと内容および働き方が同じ業務を「業務委託」という形でおこなわせるなど、法律の趣旨に反する措置を講じる企業に対しては指導をおこなうとしています。


2.65歳までの義務と70歳までの努力義務 高年法に沿った高年齢者の労働契約

今年4月より、改正高年齢者雇用安定法(以下「高年法」といいます)が施行され、70歳まで働く機会を確保する努力義務が企業に課せられています。65歳、70歳でも健康で働く意欲を持った高年齢者はたくさんいます。法律上の義務や努力義務を満たしながら、経験や知識を持った高年齢者に意欲的に働いてもらえる制度を導入できるよう、高年法について再確認しておきましょう。

事業主が定年を定める場合、その定年年齢は60歳以上としなければなりません。さらに高年法では、高年齢者の安定した雇用を確保するため、現在下図のように高年齢者の雇用を確保する措置を講じることを事業主に求めています。

大きく、65歳までの義務と70歳までの努力義務に分かれており、70歳までの努力義務は法改正により今年4月から施行されています。

高年齢者の雇用確保措置

(1)65歳までの義務

65歳までの義務では、次の3つのうちいずれかの措置を講じる必要があります。
①定年の引き上げ
②継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
③定年廃止


(2)70歳までの努力義務

70歳までの努力義務では、次の5つのうちいずれかの措置を講じよう努める必要があります。
①70歳までの定年引き上げ
②70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
③定年廃止
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

70歳までの努力義務では、④や⑤のように雇用以外の方法も可能になっています。これらを「創業支援等措置」と言います。

創業支援等措置を講じる場合には、創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、過半数組合等の同意を得る必要があります。なお、この計画はハローワークに届け出る必要はありません。


Q.勤務延長と再雇用制度のちがいは

継続雇用制度には「勤務延長」と「再雇用制度」があります。

勤務延長は、定年退職手続きをせず、賃金体系や労働条件は定年前と基本的に同じままで雇用を延長します。

それに対して再雇用制度は、いったん定年退職して、新たな賃金体系・労働条件で雇用契約を結び直すものです。中でも、1年契約の有期雇用を更新していくやり方が一般的でしょう。

継続雇用制度についてはこれまで子会社等の関連会社によるものが許されていましたが、70歳までの措置では関連会社に限らず他の事業主を紹介することにより実施するものも認められています。

Q.再雇用制度で検討することは

処遇を見直すことができるので、再雇用制度の方が導入しやすいと感じる企業が多いでしょう。再雇用制度で検討すべきなのは次のような点です。

◆処遇の見直し
役職を解かれ、契約社員や嘱託社員などに切り替えて再雇用することが多いため、それに応じて賃金を下げるのが一般的です。ただし、同一労働同一賃金の観点から著しい賃金格差には注意が必要です。

◆勤務形態の見直し
高年齢者の体力や健康状態、本人の希望に合わせて勤務形態や勤務日数、時間を見直すことも必要でしょう。

Q.継続雇用する人を選べる?

65歳までの措置は「義務」であるため、希望者全員が定年後も雇用されるような制度でなければなりません。

一方、70歳までは「努力義務」であるため、対象者の基準や継続雇用しない事由を定めておくことが可能です。

ただし基準を設ける場合でも、公序良俗に反するものは認められません。また、「会社が必要と認めた者に限る」「上司の推薦がある者に限る」などの基準も適切ではありません。企業や上司の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見できるようなものにするべきです(下図のモデル就業規則参照)。

なお、対象者の基準を設ける場合は、過半数組合等の同意を得ることが望ましいとされています。

モデル就業規則

Q.無期転換ルールは適用される?

同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合は労働者本人の申し込みにより無期労働契約に切り替わるルール(無期転換ルール)があります。

定年後の継続雇用では、1年契約などを更新していくやり方が一般的ですが、継続雇用の高年齢者については例外措置が設けられており、通算5年を超えても無期転換申込権が発生しないことになっています。

ただし例外措置が適用されるのは、事前に計画を作成し、都道府県労働局長の認定(第二種計画認定)を受けた事業主に限られます。認定されるには、「高年齢者雇用推進者の選任」「勤務時間制度の弾力化」など高年齢者を働きやすくする8つの措置のうちいずれかを実施する必要があります。

なお、他社で働いていた高年齢者を60歳以降に新たに雇用した場合は、この例外措置にあてはまりません。

Q.業務委託契約を途中で解除することはできない?

「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」は努力義務であるため、業務委託契約等を更新しない事由を定めることは可能です。

業務委託契約や社会貢献事業など「創業支援等措置」を講じる場合は計画を作成する必要があると説明しましたが、この計画の中の「契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)」に更新しない事由を記載しておきます。

なお、法律の主旨や公序良俗に反する事由は認められません。


(3)助成金の支給も

65歳以上への定年引上げや希望者全員を66歳以上の年齢まで雇用する継続雇用制度の導入、高年齢者の雇用管理制度の整備などをおこない、一定の要件を満たした事業主には、「65歳超雇用推進助成金」が支給されます。

法律ではまだ努力義務ではありますが、本格的な人材不足を見据えて、70歳までの継続雇用や定年の引き上げをおこなう企業が徐々に増えています。高年齢者の経験や知識は企業にとって財産なのです。

(公開日 : 2021年07月26日)
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