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パワハラ、セクハラ、カスタマーハラスメント

職場のハラスメントに関する実態調査

(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所


昨年6月よりパワハラ防止措置が企業に義務付けられ(中小企業は来年3月までは努力義務)、ハラスメント対策への関心が高まってきています。こうした中、厚生労働省は4月、「職場のハラスメントに関する実態調査(注1)」の結果を公表しました。近年問題化しているカスタマーハラスメント(注2)や就活生・インターンシップ生へのセクハラに関する調査も含まれており、興味深い内容となっています。抜粋してご紹介します。


各種ハラスメントについて、過去3年間に相談があったと回答した企業の割合を見ると、高い順にパワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)、カスタマーハラスメント(19.5%)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(5.2%)、介護休業等ハラスメント(1.4%)、就活等セクハラ(0.5%)でした。


1.受けたハラスメントの内容

労働者への調査結果を見ると、受けたパワハラの内容としては「精神的な攻撃」(49.4%)の割合が最も高く、次いで「過大な要求」(33.3%)となっています。男女別で見ると、「過大な要求」の割合は男性の方が高く、「人間関係からの切り離し」や「個の侵害」の割合は女性の方が高い結果となりました。

受けたセクハラの内容としては、「性的な冗談やからかい」(49.8%)の割合が最も高く、次いで「不必要な身体への接触」(22.7%)となっています。男女別では、「性的な冗談やからかい」、「不必要な身体への接触」、「食事やデートへの執拗な誘い」などの割合は女性の方が高く、「性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取扱い」、「性的な内容の情報の流布」などの割合は男性の方が高い結果となりました。


2.ハラスメントが起こる職場の特徴

ハラスメントの経験者と未経験者とで職場の特徴の回答を比較すると、両者の差が大きい項目(つまりハラスメントのある職場に特徴的な項目)は下の図のような結果となりました。

ハラスメントに関する職場の特徴
(ハラスメントのある場合・ない場合で差が大きい項目)
◆パワハラ
  • 上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない
  • ハラスメント防止規定が制定されていない
  • 失敗が許されない/失敗への許容度が低い
  • 従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的にみられる
◆セクハラ
  • ハラスメント防止規定が制定されていない
  • 従業員間の競争が激しい/個人業績と評価の連動が徹底している
  • 従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的にみられる
◆カスタマーハラスメント
  • 失敗が許されない/失敗への許容度が低い
  • 従業員間の競争が激しい/個人業績と評価の連動が徹底している
  • 従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的にみられる

パワハラ/セクハラ/カスタマーハラスメントの3つに共通するのは「従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的に見られる」という項目で、ハラスメント経験者の回答割合が未経験者より大幅に高くなっています。

また、コミュニケーションが少なかったり、失敗が許されない、従業員間の競争が激しいなどの項目も高く、従業員の気持ちへの配慮が足りない職場であることが伺えます。


3.ハラスメントを受けた後の行動

ハラスメント受けた後の労働者の行動として、パワハラ、セクハラでは「何もしなかった」割合が最も高い結果となりました(それぞれ35.9%、39.8%)。一方、カスタマーハラスメントでは「社内の上司に相談した」(48.4%)の割合が最も高くなっています。

ハラスメントを受けて何もしなかった理由としては、パワハラ、セクハラ、カスタマーハラスメントのいずれも「何をしても解決にならないと思ったから」の割合が最も高く、半数を超えています。


4.4人に1人が就活等セクハラを経験

就活等セクハラの被害は近年問題化しており、指針等で取組を明確にすべきという意見も出ています。

企業への調査では、過去3年間に就活等セクハラの相談があったと答えた企業は0.5%でしたが、就職活動またはインターンシップを経験した男女1,000名に調査した結果を見ると、就活等セクハラを経験した者の割合は約4人に1人(25.5%)でした。

受けた就活等セクハラの内容としては、「性的な冗談やからかい」(40.4%)の割合が最も高く、「食事やデートへの執拗な誘い」(27.5%)、「性的な事実関係に関する質問」(26.3%)が続いています。

男女別では、「性的な冗談やからかい」、「食事やデートへの執拗な誘い」は女性の方が高く、「性的な内容の情報の流布」、「性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取扱い(採用差別・内定取消し等)」は男性の方が高い結果となりました。


5.インターンシップでのセクハラが多い

就活等セクハラを受けた場面としては、「インターンシップに参加したとき」(34.1%)、「企業説明会やセミナーに参加したとき」(27.8%)が多いことが分かりました(グラフ1参照)。

就活等セクハラの行為者としては、「インターンシップで知り合った従業員」(32.9%)の割合が最も高く、次いで「採用面接担当者」(25.5%)、「企業説明会の担当者」(24.7%)が高くなっています。

就活等セクハラを受けた場面(男女別)

6.企業のハラスメント対策は?

回答企業の約8割が、パワハラ、セクハラおよび妊娠・出産・育児休業等・介護休業等ハラスメントに対する雇用管理上の措置として、「ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」および「相談窓口の設置と周知」を実施していると回答しています。

一方、「相談窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにするための対応」の割合は全てのハラスメントにおいて約4割程度に留まっています。

また、カスタマーハラスメントや就活等セクハラに関する取組として実施ているものとしては、「特にない」(57.3%、71.9%)の割合が最も高く、対策できていない企業が多いことが分かります(グラフ2参照)。

就活等セクハラに関する取組状況
(公開日 : 2021年08月23日)
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