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1.ハラスメントによる離職者、年間推計87万人
2.正社員からパートタイマーになった場合の年休はどうなる?
(執筆者)社会保険労務士法人 伊藤人事労務研究所
1ハラスメントによる離職者、年間推計87万人
全国の総合労働相談コーナーには毎年パワハラに関する相談が多数寄せられ、パワハラ防止法によりパワハラ防止措置が会社に義務付けられるなど、パワハラに対する社会の目は厳しくなっています。
こうした中、パーソル総合研究所は昨年11月、職場のハラスメントに関する調査結果を公表しました。全国の20~69歳男女の就業者28,135人を対象に実施されたものです。
① ハラスメントで退職、会社は把握できていない
令和3年の年間における、ハラスメントを理由とした離職者を簡易推計した結果は、約86.5万人。そのうち、57.3万人が退職理由としてハラスメントがあったことを会社に伝えられておらず、会社が把握できていないことがわかりました(図1参照)。
業種別に見ると、ハラスメントを理由とした離職者が最も多いのは「宿泊業・飲食サービス業」でした。
② ハラスメントの実態は
全就業者の34.6%が、職場で過去にハラスメントを受けた経験が「ある」と回答。過去5年以内にハラスメントの被害を経験した3,000人に対し、被害の実態について聞いたところ、「自分の仕事について批判されたり、言葉で攻撃される」(65.1%)が最多でした。
2位以下は、「乱暴な言葉遣いで命令・叱責される」(60.8%)、「小さな失敗やミスに対して、必要以上に厳しく罰せられる」(58.8%)が続きます(図2参照)。
③ 8割のハラスメントは未対応
被害者が受けたと認識したハラスメントに対して、会社側が何らかの対応をするまでに至った割合は17.6%であり、82.4%のハラスメントは未対応となっています(図3参照)。
ハラスメントに対する被害者自身の対応については、「特に何もしなかった」が4分の1を占めています。また、周囲の人がハラスメントを目撃した後の対応としても、「特に何もしなかった」人が最も多く41.4%、次いで「被害者の相談にのった/声をかけた」が40.7%となっています。
④ 回避だけでなく、対話的コミュニケーションを
ハラスメントを見る目が厳しくなるとともに、現場では「ミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」「飲み会やランチに誘わないようにしている」など、ハラスメントを回避する上司マネジメントが常態化しています。
パーソル総合研究所の分析コメントでは、「そうした行動が上司―部下間の心理的距離感を生み、部下の成長を妨げてしまっている」と指摘。「ハラスメント予防と対処は必要だが、防衛的な施策だけでは不十分」だとし、「職場での対話的コミュニケーションを促進するようなマネジメントの訓練や、その余地を生み出せるような就業環境整備などによる『育成志向のハラスメント対策』が今まさに検討されるべき」だとコメントしています。
(※)全グラフの出所:パーソル総合研究所
2正社員からパートタイマーになった場合の年休はどうなる?
正社員だった者が本人の希望でパートタイマー(短時間勤務)に契約を変更し、引き続き勤務することになりましたが、年次有給休暇はどのようになりますか。
継続勤務する場合、雇用契約の内容が変わったとしても、年次有給休暇(以下「年休」)については、勤続年数のカウント、付与された年休の日数ともに引き継がれることになります。
① 雇用形態を変更した場合
年休は勤続年数によって付与日数が増えていきますが、この勤続年数は、正社員、パートタイマーなど雇用形態の変更にかかわらず、勤務が継続している場合は引き続きカウントしていくことになります。
また、年休は付与した日の労働条件により付与日数が決定されます。付与した日にその日数を使用できる権利が与えられるので、正社員の時に付与した日数は、パートタイマーになった後も使用する権利が引き継がれます。ただし、年休は勤務した日の所定労働時間を勤務したものとみなすものですから、短時間勤務になった場合、そのときの時間分を勤務したものとみなすことになります。たとえば、8時間勤務から6時間勤務になった場合は、付与時点の8時間ではなく、取得時点の6時間分を勤務したものとして給与を支払うことになります。
このような取り扱いは、定年後の再雇用で労働時間を変更する場合や、育児短時間勤務を利用する場合なども同様です。
② パートには比例付与
年休は、(1)6ヵ月間継続勤務し、(2)全労働日の8割以上を出勤している場合に付与されますが、一定のパートタイマーには、「比例付与」という正社員(フルタイム)と異なる日数の年休を与えるよう定められています。
比例付与の対象となるのは、(1)週の所定労働日数が4日以下、かつ(2)週の所定労働時間が30時間未満の場合です。
図1のように勤務内容によって原則の年休日数か比例付与かを判断します。間違えないようにしましょう。
③ 比例付与の日数
具体的には、図2のように所定労働日数と勤続年数に応じて年休の付与日数が定められています。
なお、繁忙期は所定日数が多くなるなど週の所定労働日数では決められない場合は、図2のように年間の所定労働日数により判断することができるようになっています。
④ 使用者による時季指定義務も
平成31年4月より使用者は、年休を10日以上付与した全ての労働者について、毎年、少なくとも5日間取得させることが義務付けられました。フルタイムの場合は付与日数が10日から始まるため、対象となることが明らかですが、比例付与の対象となるパートタイマーでも、図2のとおり、勤続年数が長くなると10日を超える人が出てきますので、漏れのないよう注意しておく必要があります。